俺はただ、まよに呼ばれて降りてきただけなのに。
「んっ…」
「っ…」
「どう?グリーン…気持ちいい?」
「ああ…初めてにしたらうまいと思う、ぜ…っ」
「嬉しい……私、もっと頑張るね…っ!」
「そこまで張り切るなよ……初めてなんだから、落ち着いてすればいいからさ…」
なんだこれは。
なんだこれは!(二回目)
ここはまよの家で、あいつの部屋だ。 「レッド、渡したいものがあるから私の家に来てくれない? でも用事が立て込んでるから、この日のこの時間に来てほしいな」 なんて言われたから、言う通り来たら……一体どうなっている。
(レッドは こんらんして いる!
俺の手はノックしようとして上がったままフリーズ。 そして扉の向こうから漏れる艶のある声。 もしかしなくても、グリーンとまよはそういう関係なのか……? パッと浮かんだ想像を、首を振って掻き消す。 ない、絶対ありえない。 まよはともかく、グリーンのヘタレにそんなことできるはずがない。 本人が聞いていたら、ツッコミをいれながら否定するだろう。 しかしその当人は扉の向こう、まよと一緒にいる。……いや待て、まよは強情だからもしかしたら… グリーンだって男だ、据え膳はなんとやらって言うし…… でも小さい頃から顔馴染みの俺からしたら、まよはそんなことをするやつじゃないはず。 たまに暴走するけど、本当に心優しくて、寂しがりで、いつも側にいないと――…って俺は今余計なことを言ってる気がする。
とにかく幼い頃に比べると、今のまよは大分性格が変わったと思う。 大胆な性格になって、もじもじするような行動は取らなくなった。 いつでも自分に自信があるような、そんな感じ。 何年か前のあの日、3人でマサラを出て、それぞれの旅路で何があったのか俺には分からない。 けれどまよはその旅で確実に変化した。 成長した…のかは分からないけど、変わったと言い切れる。 それは良い意味なのかは、何とも言いがたい、が。 しかし!これ以上俺はどうすればいいと言うのか。 このまま立ち止まって、盗み聞きでもするというのか?いや、それは駄目だろう。 とりあえず、また時間を改めよう。 必ず確認も取らなければ…… そう悩んだ挙げ句の上の決意に、手を下ろしかけたその時だった。
「グリーン…」
まよがグリーンの名前を呼んだあと何か言っていたが、小さすぎて俺まで届かない。 少し間が空いたその後すぐに、バタバタと足音を立てて壊れそうな勢いで扉が開かれた。 ……内開きでなければ、確実に避けられない勢いだった。 呆然とする俺の目の前には、口を開けて驚くグリーンとベッドの上にちょこんとまよが座っていた。 俺からあからさまに視線を反らすまよに、ものすごく嫌な予感がした。 不本意ながら。
「あ、ごめ…邪魔し、た…?」
「いや邪魔も何も…てかいつからそこにいたんだよ」
「まよに呼ばれ、て」
「まよ、に…?」
「つかお前ら何して…」
「何って…なあ?別に変なこと…」
「本当かよ?」
「んだよ、それがどうかしたんってんだ」
「だ、だってお前ら変な声上げてるし…まさかグリーンに限って万に一つの可能性もないだろうけど… もしかしたら?ってあるじゃん…」
「おい、なんかボロクソに言われてないか俺。…つか声?」
思い当たる節がないのか、グリーンを口を閉ざす。 そして自分達が疑われるような状況だと気付いたようで、顔を真っ青にした。
「――〜!まよおいこらテメェ!お前またっ…!!」
「…えへっ」
「えへ☆じゃねえよ! わざと俺と同じ時間に呼んだだろ!?」
「そんなことないヨー」
「うそつけ!バレバレだからな!」
「……なによ、ちょっとくらい良いじゃんかー。 いつも素っ気ないんだから、たまには私の慰み物になりなさいよ! 締め切りだって近いのに!」
「それで毎回俺らを巻き込むのは、どこのどいつだ?」
「…てへぺろっ」
「!…こいつしばく!!」
「――まよ。この俺を使うなんて良い度胸してるね。 もちろん覚悟は出来てるんだろ?」
「や、やだなぁ二人とも怖すぎ!そんなに怒らなくてもいいじゃんか」
なんで俺達が、俺が怒っているのかまよは分からないんだろう。 この際それはどうでもいい。 いや良くないけど。 まよの変な娯楽の為に、俺をわざわざ呼んだなんて……どんな目に合うかも想像してたんだろ? そっちよりも、まよの思い通り変な想像をしてしまったのが悔しかった、っていうのがあるかな。 それと、グリーンなんかと二人きりでいたのも。 ……気にかけてほしいという行動理由だったなら、可愛げがあったものを。
だって俺を一喜一憂させられるのは、まよだけなんだから。 責任とその重さ、その身に知らしめないと。
「グリーンはともかく、この俺を手玉に取ったこと。 後悔させてやるよ」
「俺だってやるときはやるんだからな。 ……ておい、俺はともかくってどういうことだよ!」
「ちょ、もうちょい穏便に…! やめ、来ないで……いやあぁぁああ!!」
(萌の為なら死さえいとわない!) (こいつ反省してねえな) (グリーンが邪魔…)
(二人がかりで、全身くすぐりの刑でした)
腐ってる幼なじみと、それに振り回される二人の話。
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