Pearl番外編 本編とヒロインの性格がちょっと違います if話として考えていただければ
アーロン視点
最近まよ様が私を連れ立つことが少なくなった。 ――いやむしろ避けられているかもしれない。 少し前まではお城の中を歩く時、抜け出して城下へ行く時は私かルカリオを従者として連れ立っていたのに。 (私の方がルカリオより護衛につく回数は多い) まよ様が城下へお忍びに出かけるのを知っているのは私とルカリオだけなのに……まよ様が抜け出していることは周知の事実だろうけど。 (姫様は好奇心旺盛だと皆苦笑している) 最近はまよ様の元々の警護付きだった兵が、よく腕を引っ張られてあちこち連れまわされている。 何か粗相をしただろうか?と最近の記憶を巡らせても特に思い当たることもなく、ルカリオに聞いても分からないという。 ちなみにルカリオの接し方は依然として同じである。納得がいかない。 だがもし私が何か気に障ることをしたなら謝らなければ…… そう思うが奔放なまよ様はじっとされていることが少なく、なかなか捕まえることができない。 ならば座学の勉強の後を見計らって……と考えて部屋の前で待ち伏せてみても、彼女の部屋のどこかに隠されている秘密の通路を使って気付いた頃にはもぬけの殻。 (どこかでひそかに監視されているのではないかと思うくらいだ) おかげでここ一週間ほどはまともに顔を合わせてすらいない。 たまに遠目でお姿を見かけることはあるが、面と向かって会うことはまったくない。 わずかな機会もまよ様がはぐらかしてしまって聞く機会を失ってしまう。 ああ、今日もまた私とは違う兵が……
「姫様、お待ちください!!」 「兵士さん早く、私に負けちゃだめじゃない」 「姫様が早すぎるんです、よっ!」 「ふふ、あなたが遅いのか。それとも甲冑が重たいからかしら?」 「意地悪なことをおっしゃらないでください!これでも頑張って鍛えております!」 「そうなのー?あなた、歳いくつだったかしら」 「今年で十九になります」 「そう…まだまだ若いわね。もっと精進なさい」 「はっはい!勿体なきお言葉…ありがとうございます!姫様に労っていただけるだけなんて光栄です!!」 「まあ、私なんかの言葉で喜んでもらえるなんて…物好きね」 「何をおっしゃります!?姫様は女王陛下の妹君、そのような高貴なお方からお褒めの言葉を賜ることこそ城に仕える者として最上の喜びです」 「…恥ずかしいことを言うのねあなた」 「いえ、これは私も含め城の者全員の総意でございます。 …姫様、そんなに謙遜なさらないでください。 あなたはもっと堂々とするべきです。 それこそが姫様にもっとも相応しい振る舞いなのですから」 「――…ありがとう。初めてそんなことを言ってもらえたわ」 「〜っ!姫様!私は一生女王陛下と姫様にお仕えいたします!!」 「なんて大げさな…別に定年退職までで良いから」 「いーえ!私はこの命尽きるまで御二方にお仕えすると決めました!」 「っも、もう早く立ち位置に戻りなさい!」 「いけません、本日の姫様の直属の警護は自分が賜っております! 私は女王陛下よりまよ様の身の安全を任されているのですから、お一人にするわけにはまいりません」 「もう!こういう頑固なところが…はあ。ほら、行きましょう。でなければ置いていくわよ」 「姫様っお待ちください!」
曲げていた口元を緩め、勝手にどこかへ行こうとするまよ様を警護兵が慌てて追いかけていった。 私はただそれを廊下の端で隠れて聞いていただけだった。 その日ばかりではない。 あくる日もそう、ルカリオをつれて城下へお忍びで抜け出そうとしていた。
「まよ様、また抜け出されるのですかっ?」 「最近行ってないんだもの。私が城下町へ行っても何も言わないのはルカリオとアーロンだけだし。 …ルカリオ最近側にいなかったから…」 「…最近はちょっと外を見回っておりまして。 ですがアーロン様がおられたはずですが…?」 「――…そうだった?まったく会わなかったから…」 「……そう、ですか」 「そんなことより早く行きましょう。 ミュウが寂しがってるかもしれないわ」 「…分かりました。少しだけですからね」 「ありがとうルカリオ。あなたはやっぱり優しいわね」
まったく会わなかった、ね……私を避けているのはあなたでしょう? なぜ私を避けるのですか?私が何かしましたか? 私がいることを知っていて、いないように振る舞うのだから性質が悪い。 私に何か問題があるというのならばおっしゃってほしい。 ……なれば私はそれを改善して、再びあなたの御側にお仕えするというのに… いつものあなたなら私がいなければ探してくださっていた。 ――正直かなり辛いものがある。 ならばいっそまよ様に直接お伺いすればいいものを…万が一拒否されてしまったら…… いや、私たちはリーン様から招待を受けた身、粗相を働かない限り追い出されることはないと思うが… それでもまよ様から離れた位置に配置されてしまう可能性は十分にある。 まよ様への恋心を自覚してからは、お傍にいるだけでもと決めたのに。 傍にいられなくなったら接点もなくなってしまう。 それだけは避けなくては……ただでさえ婚約者の方から送られてくる文を破ってしまいたい衝動にかられるのだ。
まよ様の婚約は国が絡んだ外交のためのもの、それを覆すことは両国の総意がなければ不可能に等しい。 元より自分の意思などあってないようなものだとまよ様は諦めてしまわれている。 …けれどもし私がまよ様の立場ならきっと同じ考えだと思う。 自分の身柄は自分一人のものではない、国であり国民の為のもの。個人の意思など存在してはならないのだ。 だからリーン様もまよ様のわがままには何も言わない。 一時のものだと分かっているから。 ……彼女に選べる未来はない、国が決めたレールの上を走ることしか許されないお方だ。 リーン様はまよ様まで犠牲になることを望んではいないけれど、女王として国の未来を選択しなくてはならない。 いずれ向こうの国に嫁いだその先、国に戻ることは…おそらくない。 だから僅かな人生を、自由の利く今だけは彼女の好きにさせてあげたいという思いは理解できる。 私が婚約者に嫉妬したり彼女の立場を疎ましく感じるのはお門違いなのだ。 この国でリーン様と同じくらい国を思うのはまよ様くらいだけなのだから。 私の務めはこの国とまよ様の身辺警護、まよ様にどう思われようと私は彼女をお守りするだけだ――…
(そう、この胸の痛みはただの勘違い) (一晩眠ってしまえばすぐに忘れてしまう)
「ふふ、今頃アーロンは……」 「?、まよ様?どうされましたか」 「なんでもないわ、ルカリオ」
(そうやってずっと悩んでいてねアーロン) (だって悩んでいる間は私のことしか考えられないでしょう?)
(嫉妬して嫉妬して…いつか私を殺したいくらい私を愛してほしいの)
嫉妬してしまい苦悩するアーロンと、彼に嫉妬してほしいがためにわざとつき離す姫の話 もっとシンプルな流れの予定だったのに、もはや本編並みのごたごた感が…
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