ICOパロ アーロン視点
鬱蒼と茂る森の奥深く、海の上に高く存在する巨大な城、数人の騎士に連れられ私は対岸からそれを眺める。 私の生まれた村には古くからのしきたりがあった。 それは今私の身に宿る不思議な力…波動を持つものを海辺にそびえる彼の城へ生け贄に差し出すというしきたり。 赤子のときから波動を纏っていた私は、いつか差し出される生け贄として丁重に、またその思想を刷り込まれたので、生け贄になることに抵抗は生まれなかった。 数人の騎士に囲まれ、馬で移動してる間も、美しい森だとしか呑気な考え事しかしていなかった。 大人たちは最初から最後まで一言も喋ることなく、淡々と事を進めていく。 大きな石橋が架かっているにも関わらず、あえて海側から城内に入ることにはいささか疑問を感じたけど。 暗い城内を進み、最終的な到達点はとても広い部屋。 三階立ての大広間の壁にびっしり並ぶ鈍色の箱、その一つに私は入れられた。 ああそうか、これが私の墓標なのか。 この中で孤独に死んでいくのだな。 生け贄というからてっきり剣とかで一突きされるのだと勘違いしていた。 でも意味は同じか、死ぬことに違いはない。 大人たちも去り、私は箱の中で死を待ったが数時間後に地揺れが起こり、台座から箱が落下して私は外に投げ出された。 私は運が良いのか悪いのか、けれどせっかく助かったのなら惨めに生にすがりついてもいいだろうか。 死は怖くないけれど、定めでもないのにのうのうと死ぬつもりはない。 村の者は知らないのだ、儀式は正常に行われたと勘違いしたままでいい。 さて私が来た道は塞がれているし、別の道を探すしかない。 真ん中の階段にスイッチを見つけたので動かしたら、ガコンと扉の開く音がした。 いくつかの部屋を乗り越え、私は螺旋状に階段が伸びる、高くくり貫かれた部屋に出た。
「……」
特に何か音がしたわけでもない。 けれど私は何か呼ばれたような気がして上を見上げると、遥かな上空に天井から何かが吊り下げられているではないか。 地の底からだと暗い天井はぼやけて見え、何があるのかまったく判断できない。 しかし私はそこに行かなくてはいけないと思った。 長い長い螺旋状の階段を必死にかけ上がる。 道なきところも機転を効かせて先へ進んだ。 ようやく天井から吊り下げられた何かと同じ目線になる。 それは巨大な鳥かごだった。 しかも中には白い少女が膝を抱えて座っているじゃないか! こんなところになぜ自分以外の人間がとか、もしかして彼女も同じ境遇でとか思うところはたくさんあったけれど、それよりもまず彼女を助けなければ。 すぐそばにあったレバーを引くと、鳥かごはゆっくり地面へ下ろされていったので、私も元来た道を辿り再び周回する羽目になった。 私だってまだ小さいんだ、体力だってそんなにない。 息を切らせて床に辿り着くと、鳥かごの扉を開き、中の少女に手を差し伸べた。 けれど少女は手を取ることなく自ら鳥かごを出ると、じっと私を見つめた。 しかし改めて間近に見たが、白い少女にはほとんど色といったものがないのだ。 肌も白く(日焼け云々以前の問題で白い、病的な青白さという風でもない)、そのせいか暗い部屋の中で輝きを放っているように見える。 まるで光の中に入ると、そのまま溶け込んで消えてしまいそうな繊細さを感じた。 …私も喋らない。 彼女も言葉を発さない。 この沈黙の居心地の悪さといったら! 何か声を掛けないと、でも何から聞けばいいんだ? 葛藤する私を他所に彼女は瞬きを数回繰り返すと、言葉をしゃべった。
「…………」(あなたは誰?どうやってここに来たの?)
……何と、これは困った。 どうやら私と彼女の言語は違うらしい。 彼女が何と言ったのかまったく理解できない。 弱ったな、これだと会話も筆談も通じない。
「…………」(ここにいてはいけないわ)
「き、君はどうしてここにいるんだ? 君には波動が見えないけど、もしかして私と同じなのか?」
「……?」
やはり駄目か、言葉が通じないらしい。 彼女は不思議そうに首を傾げる。 けれど何にしたって、こんな無人の城にいても餓死するだけだ。 彼女を連れてここから脱出しなければ。 彼女の手を取るため、細い腕に手を伸ばした瞬間のことだった。 突然床に黒い穴が空き、その中から影の化け物が次々と現れたではないか! 化け物は私と彼女の間に割り入り、彼女を無理やり抱くと穴の中へ引き込もうとする。 何も言わないけれど、苦しそうな様子の彼女の姿に、私は近くに落ちていた木の棒を拾うと、無我夢中に化け物へ振りかざし彼女から遠ざけた。 自力で出れないらしい穴から彼女を引っ張りあげ、背中に隠して棒を構える。 やつらに彼女を渡してはいけない、そう私は直感していた。 木の棒で幾重にも叩くと、化け物は塵となり闇へ溶けていく。 同じように、彼女を守りながら全ての化け物を倒しきって、もうこれ以上現れないか警戒する。 ……どうやら出てこなさそうだ。
「大丈夫か?怪我はしていないだろうか」
「………」 (私のことなんて放っておけばいいのに…あの人を怒らせたら…)
……外見に傷はなさそうだから、無事ということでいいか。 少しうつむき加減の彼女にもう一度手を差し伸べる。 今度はおずおずと、怯えを宿しながら私の手を取ってくれた。
「とりあえずここから脱出しよう。 これだけ広いならいくらでも道はあるはずさ」
手を繋いで歩き出した私に引っ張られる形だが、彼女は何も言わずついてきてくれる。 その手は温もりがあまりなく、けれど冷たくもなかった。 …小さく、か細い手だ。
「自己紹介をしていなかったね、私の名前はアーロン。君の名前は?」
「アー、ロン…。………」
聞きなれぬ言葉の中に、一つだけ私でも聞き取れる単語があった。 それがきっと彼女の名前。
「まよ、だね。さあ一緒にこの城から出よう」
「…アーロン」
「これからよろしく、まよ」
小さい手を掴んで感じた。 私はこの手を離してはいけない。 でなければ自分の大切なものまで手放してしまいそうだから。
この時の私は知らなかった。 彼女を襲った影の正体、まよをこの城に閉じ込めた人物を。
「ッアーロン!」 「まよ!!」
あの石橋を渡りかけた時、私と君は引き裂かれてしまうだなんて。 無事に城の外へ出られる、そう信じていた。
もはやICOでしろよと言われそうな長文になってしまった。 これから連載が始まりそうな雰囲気だなこれ。 終盤を書くつもりが冒頭になってしまった、どういうことだってばよ…
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