「う、ん……」
「あっ!」
「え?ちょっ、オレ何もしてないぜ」
一行が息を呑む中、彼女は静かに重い瞼を開けた。
最初に映したものはベッドの天井、そして朧気にサトシへ視線を移すと勢いよく起き上がった。
いきなり肩を掴まれてサトシは困惑する。
「どうしてっ……行かないで、私も連れて行って!ねえ!」
「なっ!おい落ち着けよ」
「あなたが消えるなんて嫌!私もっ……」
「リース様落ち着いて下さい。彼はアーロンではありません」
「………え?」
必死に肩を揺り動かしていたリースは、アイリーンの一言によくよく目の前の人物を見る。
姿格好こそは彼そのものだが、顔つきは似ているものの全くの別人で。
リースはパッと肩を離し、俯きながら謝罪の言葉を述べた。
「ごめんなさい、私てっきりアーロンだと」
「べっ別に……平気だ、ぜ」
散々揺らされて酔ったのか、途切れ途切れになる言葉。
そんなサトシを見て、バツが悪そうに眉を潜める。
改めて部屋を見渡せば、自分の知る部屋と少し違う気がした。
「本当にごめんなさい。あなたのお名前は?」
「オレはサトシ、こっちが相棒のピカチュウにハルカ、マサト、タケシ。オレの仲間だ」
「よろしくね」
「美しいお姉様、どうかボクと一緒にこの後踊って……」
「はいはい。分かったから」
いきなりリースの前に移動し、膝をついて手を取るタケシの耳を引っ張るマサトに、全員苦笑いした。
「私はリース、ここは私の部屋なんですよね」
「はい、ですが驚かないでお聞き下さい。
今はリース様のいた時代から何百年も後の未来なのです」
「何言って……」
「私の名はアイリーン、リーン様とリース様はご先祖に当たるのです」
「ちょっと待って、言ってる意味が分からないわ。
ここが未来って?そんな突拍子な――…」
「リース様は勇者アーロンによって眠りについたと言い伝えられております」
「アーロンが私、を?嘘よそんな……彼がそんなこと、」
「ですが伝説に登場するのはリーン様と勇者アーロンだけなのです」
リースは動揺を隠せなかった。
無理もない。
いきなりここは未来です、なんて言われても実感が湧くわけない。
加えて自分を封印……したのがあのアーロンなのだ。
リースは静かに目を閉じて、混乱する頭を冷やす。
((ここが未来で、私がいた時代とは違う。お姉様もアーロンもいない))
考えれば考える程、途方もなく信じがたい話。
けれどアイリーンの真摯な瞳にリースは現実だと理解せざるを得ない。
ぐるりと部屋を見回し立ち上がろうとしたが。
すぐにベッドに座り込む。
「体が、動かない……」
「そりゃ百年も動かなかったら動きが鈍るんじゃないの?
オレなんか一時間大人しくしてるのだって無理だぜ」
「サトシは体を動かさないと気が済まないもんね」
「流石サトシ」
「おいどういう意味だよ」
三人で意見を合わしクスクス笑うハルカらを横目で睨む。
最も当人達はさらりと躱しながら、リースに目をやった。
リースは俯いている。
「ごめんなさい。少しの間だけ1人にしてもらえないかしら」
「……分かりました」
「え、何で?」
「何でもいいから!ほら行くわよサトシ」