「大丈夫!?」

「キッドさ、ん…わたし……」

「気をしっかり持ってリース!きっと何か助ける方法があるわ」

「わたし、わたしのせいで…タケシくんが…」

「いいえ、あなたは悪くないし、タケシくんもそんな風に考える子じゃないわ。
このまま無事に脱出しなければ、助けることも出来なくなってしまう。
彼の意思を尊重して、とにかく今は一刻も早くサトシくんたちと合流すること。
そのあとどうやって助けるか、みんなで考えましょう」

「…は、い……」

「マニューラ、リースをフォローしてちょうだい」

「ニューラ!」


ボールからマニューラを出したキッドさんは尚も私の手を引き、ひたすら走り続ける。
やがて二手の道に差し掛かり、立ち止った私たち。
けれどぐずぐずしてたら、追手に追いつかれてしまう。
感で進もうとした瞬間、片方の道から微かに聞き覚えのある声が聞こえた。


「…サトシ?」

「どうしたのリース」

「キッドさん、こっちからサトシの声が聞こえます」

「…本当だわ。とても小さいけれど人の声が聞こえる…行きましょう」


その道を進むほどに、声は増え大きくなっていく。
風音も混じりはじめたら、外に出るまで数分もかからなかった。
久しぶりの外は、さっきの水晶が谷間に無数に伸びている場所で、私たちよりも上の方でサトシとピカチュウがお互いの元へ向かっているところだった。


「あれがサトシのピカチュウですか?」

「ええ、すごく強いのよ。バトルで負けちゃったわ」

「一番の友達って聞きました…すごいですね……」

「そうね。普通のトレーナーとポケモンとの結びつきより強いと思うわ」

「自分のポケモンか。いいな…」


私のいた時代にはまだモンスターボールなんていうものはなく、ポケモンとは意志疎通を交わすのみで、今でいう野生のポケモンといった形だった。
だからサトシたちがモンスターボールでポケモンを自由に出し入れするのを初めて見たときは、とても衝撃的だった。
他にも私の時代にはなかったもの、建物、雰囲気……何もかもが初めて見るものばかりで、ここがあの城下町なのか信じられないくらい。
最初は混乱していて気付かなかったのだけれど、落ち着いてから周りを見始めて気付く。
この国が戦火に脅かされることなく平和な時を過ごせたこと、その理由にアーロンが関わっていたなんて思いもしなかった。
…アーロンのことは信じていないわけじゃない、でもどうして私やルカリオを封印したのか声高にして叫びたい。
私がお姉さまとアーロン、ルカリオと笑いあう記憶は、昨日のことのように覚えている。
たくさん記憶が叫んでいる、アーロンは理由もなくこんなことをする人間ではない。
きっと何か深い理由があるんだと、思い込まざるを得ない。
例えルカリオという知人がいても、私はこの世界でたった一人きりなのだから。
もしサトシやキッドさんまでもが目の前から失われてしまったら……


「サトシくん危ない!!」


キッドさんの叫ぶ声で私は思考の海からようやく浮上し、上を見上げるとサトシとピカチュウが抱き合ったまま谷底へ落ちていくではないか!


「マニューラ!リースをお願い!!」


マニューラの返事を聞く間もなく、キッドさんはワイヤーを対岸の水晶に巻き付け、そのまま谷間に飛び出してしまった。
風に流され落下する二人をキッドさんは空中で見事抱きかかえ、そのまま対岸へ着地したのを見て私は安堵で胸を撫で下ろした……が、その直後マニューラがいきなり私を抱きかかえ水晶の柱を下り始め出したではないか!
状況が呑み込めずパニックになっている私をよそに、マニューラは時々強風に煽られながらも着実に下へ降りていく。
最後二本上の水晶から、キッドさんたちのいる対岸へ飛び降りたときは息もできなかった。


「あ、あありがとうマニューラ…(でもせめて一言欲しかった…!)」

「ニューラ!」

「リースも!無事だったのか!」

「サトシ大丈夫?怪我してない?」

「ああ、さっきはちょっとヒヤッとしたけど大丈夫さ!」

「よかった…ルカリオも平気?」

「ええ大丈夫です」

「そう…サトシ、そのピカチュウが例の?」

「ああ!オレの一番の友達のピカチュウさ!」

「初めまして、私はリース。よろしくねピカチュウ」
「ピカ」

「ミュウ!」

「あっ、ミュウ!?」

「っミュウは一緒に遊びたかっただけなのにゃ」


サトシの飛ばされた帽子を追いかけて拾ってきてくれたミュウと、人間の言葉をしゃべるニャースも私たちの元へ合流した。
ミュウに差し出された帽子をサトシが受け取り、穏やかな空気になる。
しかしそれもつかの間、上の穴からレジスチルが姿を現し、慌ててその場を後にした。


「リース!みんなはっ?」
「そ、れは……」


捕まってしまった、なんて言えなかった。
私のせいでタケシくんは捕まってしまったのだから…
真剣に目を覗いてくるサトシの視線が怖くて、逸らすことしかできなかった。
沈黙を貫く私とキッドさんの様子にサトシも感づいたらしく、さっきまでの明るい笑顔は失われてしまった。
この居たたまれない雰囲気の中、先頭を走るルカリオが急に足を止めた。
私たちの行く道の先から現れたのは樹の守護者、いわゆる白血球ともいえる存在。


「みんな…あれに呑み込まれて……」

「え…?」

「ムサシとコジロウも?」

「…ああ」

「わ、私のせいで…」

「…リース?」

「こっちの道へ!!」

「っリース!何してんだ!捕まっちゃうぞ!?」


動かない私の手を取ってサトシは走り出す。
上へ続くゆるい坂道の先にやがて太陽の光が注ぐ出口が見えた。
やっとここから出られる…!
その場にいた全員が思った、が……その先は高く水晶の柱がいくつも立った穴の中に変わりはなくて、天井に空いた空洞から外の日差しが水晶を輝かせる。
この状況でなければその美しさに舌を巻いていただろうけど、レジスチルに樹の守護者から追われている私たちにそんな暇もなく、先導を切ろうとしたルカリオの前に、影から現れたレジスチルがルカリオを捕まえる。


「っぐ!」
「ルカリオ!?」


その直後背後から急接近した樹の守護者が、キッドさんとサトシを捉え包み込んでしまった。


「サトシ!キッドさん!?いや…いやああ!!」

「ピカピ!」



予想以上に長くなったので一端切ります。



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