風の撫でる音しか聞こえない空間で、ルカリオは突然感覚を研ぎ澄ませたかと思えば「危ない!」とサトシを突き飛ばし、自らもまたその場から離れる。
直後2人の足元から土煙と共に現れた、体が岩で出来たポケモン。
レジロックというポケモンは、いきなり私たちに向かってはかいこうせんを発してきた。
理由は分からないけど、どうやら私たちの敵らしい。
横にあった細い小道に逃げ込み、追い付かれないよう走り続けるが元々体力なんてないに等しい私にはかなりの運動量で、へたりこみそうになるのを隠すのに必死だ。
それでもだんだんみんなと離れていく距離に焦りを感じていると、うしろにいたサトシが「大丈夫か!?」と、私の手を取って前を走ってくれた。
ルカリオの先導で脇にあった洞窟を進み、明かりを持つキッドさんの後ろに並んでついていく。
ルカリオによると、レジロックは世界のはじまりの樹に番人のようなものらしい。
長い道を抜け、私たちは自然が広がる不思議な空間に辿り着いた。
樹の中とは思えないほど広い空間、天井を支える石柱には緑が絡みつき、まるで巨木のよう。
澄んだ水が広がっていて、さながら小さい湖のようなものになっている。
外に出たと言っても過言ではないほど広く、岩の壁に囲まれていなければ、樹の中とは分からないほどだった。
またポケモンの姿もあり、お城に近くにも生息しているようなポケモンから、文献で読んだ大昔に絶滅したとされるかせきポケモンまで共存している。
どうやらここは世界のはじまりの樹の真下らしい。
つまりはミュウとピカチュウはこの上にいる、と。
それを知ったサトシはとにかく上を目指す!と叫んで、登り坂になっている洞窟に掛け込み、私たちも彼のあとに続いた。
すぐその場を離れた私たちは気付かなかった。
私たちのあとを追ってきたレジロックに、同種の伝説と呼ばれる残り二体のポケモンがいたことを。


外に出た私たちは、思わず驚嘆した。
目下広がる美しい緑の森と荒々しい岩肌、遥か彼方にはオルドラン城も確認出来る。
まるで空の上から地上を見下ろすような、そんな感覚。
あまりの美しい景色に言葉も出ない。
ミュウはここから私たち人間を見下ろして、孤独に過ごしていたのね…
ずっと長い間、遥かな昔から私たちを……
ピカチュウを助けて、落ち着いたら今まで以上にミュウと遊んであげよう。
今の私にお姫様というしがらみはない。
ミュウをひとりぼっちにはさせない、私が側にいてあげなきゃ。
そんなとき、遠くからサトシの叫ぶ声が聞こえたかと思えば、ルカリオと一緒に斜面を一気に下って来ているではないか。
どうしたの?と声を掛ける前に気付く。
サトシの背後から続けて現れたのは、透き通る水晶のような体をした美しいポケモン。
私以外の人が、レジアイスだと叫ぶ。
目の前に迫りくるレジアイスは、どうやら私たちの敵らしい。
別の道を探す、とルカリオの先導を受けて走る私たちは、逃げた先に別の洞窟の入口を見つけて駆け込んだ。
その先は元の緑深き場所ではなく、底なしの谷間に無数の水晶が梯子する空間。
耳を済まし、取り敢えずレジアイスが追ってくる気配がないので安堵した……が対岸上部から悲鳴が聞こえたかと思えば、白い服を着た男女の二人組が私たちの目の前に降ってきた。
降ってきた人影にサトシが「ロケット団!?」と名前を驚きながら呼んだので、どうやら知り合いだということはなんとなく理解できたけど、女性の人が助けを乞うてきたのでとても嫌な予感がしました、はい。


「あいつらをなんとかしてくれ!」


そう縋るような声と共に指した方向から、別の鉱物で出来た巨大な二体のポケモンが姿を現した。
胴体の中心にある点字の部分から私たちに目掛けてはかいこうせんが撃たれる。
レジロック、レジスチルと呼ばれるポケモンから逃げるべく、反対側の水晶を一目散に駆け抜ける。
途中ルカリオがはどうだんで牽制を掛けながら、また別の暗い洞窟の中へ逆戻りした。
一端外へ出て、人一人がやっと通れるくらいの細道をそろりと渡り、ルカリオが細道の中央を落として後を追ってくる二体のポケモンの足止めをする。
けれど私たちを襲うのは、三体のポケモンだけではない。
この樹が私たちという異物を排除しようとしているなんて。

ずっと走り続けてスピードが落ちかけてきている私たちとは対照に、長髪の女性は疲れも見せず先頭を走る。
少し先を行った紫色の髪の男性が立ち止っていたので、私たちも足を止めたその先に信じられない光景が広がっていた。
先頭にいた長髪の女性が、リリーラの形を模したオレンジ色の物体に、身体を拘束されていたのだ。
状況を呑み込めていない私たちが助けに入る間もなく、女性は呑まれるように取り込まれてそのまま地面と融合する。
その奥からオムナイトを模した同じオレンジ色の物体が、仲間の男性を絡めとる。
呑まれる寸前彼は手持ちのチリーンをボールから出して、彼女と同じく地面の下へ消えていった。

「うそ…」
「どういうことなの…これ……」

目の前で起こった出来事に茫然とする私たちの背後から爆音と同時にレジロック、レジスチルが姿を現す。

再び走り出す私たちだったけど、前方から今度はプテラに擬態した物体がとても速いスピードで飛んできたけど、ルカリオがはどうだんで倒し、道が開く。
次々と地面から現れるそれにキッドさんが何やら独り言を話し始めた。
キッドさんは通信機と呼ばれるもので遠くの人間と会話しているという、技術の進歩ってすごい。
その通信先の人によれば、どうやら世界のはじまり樹の白血球ともいえる存在で、長い間人間の侵入を許さなかった樹が私たちを異物だと認識し、攻撃しているとのこと。
それははじまりの樹が生きているという証拠でもある。
途中天井から突如降ってきた物体に襲われかけた私を庇って、ルカリオが取り込まれてしまった。

「ルカリオ!!」
「っぐう!」
「いやあルカリオ!!」

一瞬ルカリオの姿は見えなくなったが、二人のように取り込まれることなくルカリオを残して物体は地面に溶けていく。
ルカリオの無事な姿に私は力が抜けて座り込みそうになったのを何とか思いとどまった。

「ポケモンはバイ菌じゃないってことね…」
「ッルカリオ!怪我してない!?」
「大丈夫ですリース様」
「良かった、ルカリオにまで何かあったら私…」
「リース様お話はあとです。うしろにレジロックが来ています」
「ご、ごめんなさい…急ぎましょう」

前後左右に気を配り、やがていくつもの道が並ぶ広めの空間に出る。
ここでサトシはピカチュウを捜すから先に行ってくれ、と私たちと別行動を取った。
その場に残ったサトシとルカリオを名残惜しく振り返る私の肩をキッドさんが叩いて先を促される。
道の先へ続いていた場所は空間ともいうべき、いくつもの岩場が足元を構成する広い場所だった。
反対側に見える出口を目指し、岩場の隙間に気を付けながらマサト君、ハルカちゃん、タケシさん、私そして少し離れた最後尾をキッドさんで進む。
真ん中まで来たあたりで出口から現れたオレンジ色の物体に、マサトくんとタケシ君さんが飲み込まれてしまったのだ!

「タケシさん!!」
「ダメです!逃げてくださいリースさん!!」
「みんなを置いて逃げることなんてできないよ…!」
「オレはもう助かりません!せめてハルカとリースさんだけでも…!」
「いやよタケシさん!そんなこと言わないで!」
「っお前たちはリースさんを守るんだ!!」

必死でタケシさんの体を引っ張り上げる私をよそに、手持ちのポケモンを逃がしたタケシさんは抵抗のかいなく飲み込まれてしまった。
助けられなかったショックでへたり込む私にフォレトスが体当たりで吹き飛ばす。
どうやら私にも追手が向けられていたらしいのを、フォレトスが助けてくれたみたいだった。
ルカリオ同様、物体に取り込まれることなく無傷のままその場に佇み、タケシくんの消えた地面を見つめていた。
横でハルカちゃんも物体に呑み込まれ、ショックを隠せずにいた私の手をキッドさんが強引に掴み、引っ張る。
キッドさんが何か言っていたようだったけど、今の私の耳には何も届かなかった。




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