「お帰り……サトシ、びしょ濡れだね」

「リース…」

「ピカチュウとの仲を悪く言われて怒る気持ちは分かるよ。
…でもルカリオの気持ちも少しだけでいいから理解してあげてほしいの」

「――分かってる、オレがカッとなって言いすぎたんだ」

「今、ルカリオはすごく不安なの。
アーロンがそんなことするはずないって否定したいんだけど、封印されて何を信じたらいいのか分からない。
信じてた分裏切られたショックがルカリオの傷になって苦しめてる。
…私にもその気持ちがよく分かるから」

「…ごめん、あとでちゃんと謝る。
でもオレ本当に勇者って呼ばれるような人が、あいつを裏切るわけがないって思うんだ」

「……うん、私も。いや、信じたくないのかも」

「信じたくない?」


そうだ、私は信じたくない。
最初の出会いは最悪だった、でも彼のことを理解し始めた。
気付いたときには好きになっていた。
そんな彼が裏切るようなことはしない。
私の知っているアーロンは、強くて人の痛みを知ることができる優しい人だから。

信じたい、でも現実を突き付けられる。
彼もお姉さまも、ばあやも誰もいない見知らぬ世界。
夢に見た平和で美しい未来。
その平和も彼を犠牲にして生まれたという。
じゃあ私たちは?私とルカリオは一体何の為に封印されたの?
ただ平和な未来を見せたいだけだった?……違う!
彼はそんなこと絶対にしない。
ルカリオとアーロンはお互いの背中を守って戦う、大切なパートナーじゃないの?
会いたい、直接話をしたい。
でも彼はもういない。
記憶の中の彼に語り掛けて、私は星を見上げる。
星の光でさえ今の私には眩しく思えた。





明朝、再び゛世界のはじまりの樹゛に向かって出発した。
今日一日順調に進めば、半日くらいで着くだろうとキッドさんは言う。
昨日みたいな間欠泉もなく、時折車体を揺らしながらも進む。
二時間くらい経ったであろうとき、窓の景色が止まる。
ううん、車自体が止まっている。
何だろうと前座席を覗いたら、その先を行くルカリオが足を止めて何かを見ていた。
何か見つけたのかしら、私達は車を降りると彼に歩み寄る。
ルカリオは何の変哲もない崖の上を切なそうに見上げていた。


「どうしたの?ルカリオ。何かあるの」

「いえ……私はここで、アーロン様に封じられたのです」

「!!」

「……こんなところに、時間の花?」


道端に咲いていた時間の花に触れると、空間が揺らぐ。
記憶されていたのは、ルカリオが封印されたその瞬間。
戸惑うルカリオにアーロンは杖を突き立て、封印した。
ルカリオの言っていたことは真実だった。
――アーロンはルカリオを封印した。
私も、みんなもなんて言葉をかけたらいいのか分からない。
ただルカリオの深い悲しみだけが伝わってくる。
アーロン…あなたは本当に、ルカリオを……

ルカリオが封印された直後だった。
地響きが聞こえてきたのは。


「一体なんだ!?」

「あれは……!」


左右から赤と緑の鎧を着たポケモンと人がこちらに向かってくる。
それぞれの旗に表されたエンブレム。
間違いない、緊張状態にあった隣国同士。
つまりここは……


「…戦場になった?」


私が封印される前に、開戦の知らせは聞いた。
でもこんな近くが戦場になるなんて……
いくら中立を宣言していても、これじゃあ巻き込まれたも同然。
お姉さまは、この国はどうしたのだろうか。
今も国があるから、行く末に不安はないけれど。
お姉さまは、無事なの……?
――…なんて、お姉さまをいくら心配しても、もう過去で起こったことだからどうしようもないけど。
ただ、その時のお姉さまを思うと胸が苦しい。
どんなに離れたって、私とお姉さまは唯一の家族で大切な人だから。


「う、ああぁぁあああ!!」

「ルカリオ!?」


ルカリオは急に叫び声を上げると、やみくもに波動弾を幻影に何発も撃ち込む。
どうやら幻と分からないくらい、混乱しているみたいだった。
その姿があまりにも痛々しくて、暴れるルカリオに思わず抱きつく。
「ルカリオ」と名を呼んで必死に止めれば、やがて私に気付いたのか両手を下ろして恐々と私を振り返った。


「リースさま…?」

「ルカリオ、これは過去の出来事なんだよ。
今起きてる事実じゃない……だから、倒そうとしなくていいの」

「申し訳ございませんリース様……ですから、泣かないで下さい」

「わ、たし…泣いてなんか……」


目元を拭っても涙はない。
頭では冷静に判断していても、胸に宿るのは悲しみ、怒り、後悔……そして恨み。
それらが表れてしまったのかと思って、ドキリとする。
泣いてないと否定したら、ルカリオは首を振って違うと言った。


「リース様の心が泣いておられます」

「そんなことない…私はお姉さまの、陛下の妹……こんなことで感情を揺らしては…」

「強がられても、私には見えるんですよ」

「…波動……ずるい」

「――…さっきは本当にすみませんでした。
リース様を護衛する身でありながら、危険な目に合わせてしまった…」

「いいの、私にもルカリオの気持ちが痛いほど伝わるから。
辛かったよね、ルカリオ…アーロンはどうして……分からない、分からないよ…」

「いえ、一番お辛いのはリース様です。
私ばかり取り乱して……もう大丈夫です。ですから先を急ぎましょう」

「――ええ。この先に真実がある気がするの。
どうしてアーロンがこんなことをしたのか…その理由が……」


私は立ち上がり、世界のはじまりの樹を見据えた。
あともう少し…ミュウもピカチュウもそこにいる。
アーロンの行動の理由が分かる気がする。
待ってて、 ――…






サトシがルカリオに謝るシーンをカットしました。
すみません……

でもちゃんとサトシは謝ってますので!
最後の空白の名前はご想像にお任せします。







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