「うわっ」

「サトシ!」


サトシと一緒に落ちてきたものをハルカちゃんがうまく受け止める。
サトシはハルカちゃんとマサトくんの横に落下する。
激しい水音が高い位置から落下したことを物語っている。


「山のものを取っちゃだめじゃないサトシ」

「あー…ごめん」

「しょうがないわね……」

「あとで植え直してあげよう」

「ああ」


受け止めたそれをハルカちゃんは不思議そうに翳すものを私は見覚えがあった。
透き通った鉱石のようなあれは……時間の花?だったかしら。
この辺り一帯に見られる水晶と同種の花。
普段はつぼみのままだけど、その花には不思議な力がある。
前にアーロンと外の森に行ったとき見つけて、彼に教えてもらった。
波動を使う者に、時の奇跡を見せてくれるというお話。
アーロンが翳して見せてくれたそれは、まさしく時の奇跡だった。


時間も夕刻、間欠泉が収まった頃に3人で時間の花を温泉の傍に植えようと穴を掘っていた。
ハルカちゃんが持っていた花をサトシが埋めようと受け取ったとき、時の奇跡が起こった。
青い光を灯した花は輝きを放つと、サトシが温泉に落ちたときの映像が再生される。
みんな驚いて時間の花に駆け寄ってきた。


「時間の花だわ」

「時間の、花?」

「そう、時間の花」

「リースさん知っているんですか?」

「アーロンから教えてもらったことがあるの。時間の花は波動使いに時の奇跡を見せてくれるの」

「不思議だなあ」

「きっとサトシがアーロンと同じ波動を持っているから、奇跡が起きたのよ」


アーロンと同じ波動、か……だって私の封印を解いて目覚めさせることができるんだから。
この間まで彼と一緒だったはずなのに、懐かしく感じる。
サトシに彼の面影が重なって見えて私は目を伏せた。


「もうそろそろ日が暮れるから、今日はここで一晩明かしましょう」

「そうね、リースの言うとおりだわ」

「夜は危ないですからね」

「今日はここで野宿かあ…」


野宿……そうだ、私、初めてお城の外で一晩を過ごすんだっけ。
今まで城を抜け出したことはあっても、必ず戻っていたから。
野宿ってどうやってするのかしら…?
旅をしているサトシたちからしたら私の疑問はおかしいものなんだろうけど、私にとっては何もかも初めての経験。
こうやって車というのに乗るのも、こんな遠くまで来ることも、外で寝るということも。
戦争が起きそうな不安の中で、外に泊まることはできなかった。
私は今、望んでいた自由を掴んでいるのだと実感できた。
それを食事が終わって火を囲んでいるときに話したら、サトシがピカチュウと初めて出会ったときのことを教えてくれた。
少ししか知らないけれどすごく仲が好さそうだった二人が、最初仲が悪かったなんて信じられない。
二人で困難を乗り越えて生まれた絆、か……羨ましいと思う。
私にはお姉さまと城のみんなと、アーロンとルカリオしかいなかったとてもちっぽけな世界しか知らない。
もがいてももがいても抗えない自分の努め。
みんな羨ましいなんて言うけど……私には苦痛でしかなかったお城での生活。
まるで鳥籠のなかの小鳥。
少しでももがこうと城の外に飛び出しては、行く宛もなく、外にいるただ一人の友達のために抜け出してみんなを困らせて、そんな私が虚しくて。
女王として頑張るお姉さまを知ってるから勝手なこともあまりできないし、お姉さまを支えてあげたいと思う。
でも、もし叶うなら普通の女の子になりたい…なんて何回願ったか。


「ピカチュウと信じあってるサトシが羨ましいな…」

「リース……?」

「何が信じているだ!!人は信用できない!」

「ちょっと待てよ!」


突然そんなことを言って席を外したルカリオをサトシが追ってどこかへ行ってしまう。
私もそのあとを追おうとして……止めた。
私に言えることなんて何もないのだから。
せめてケンカしないでほしいと思いながら元の席へ着く。
大きな声で話す二人の会話に、私以外の全員は二人のあとを追う。
川に落ちる水音と怒声が静かな空気を揺らした。






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