「すごいわ!この車というものはとても早いのね!」
「それにしても道が悪いから……わっ!」
「大丈夫、マサト!?」
「あなたを支えてあげられないのなら、せめて僕の手を…」
「おい!急に動くなよタケシ」
「みんなそのうち舌を噛むわよ」
私たちは今、キッドさんの車というものに乗ってルカリオの案内の下、世界のはじまりの樹を目指している。
アイリーンさんに城で待つよう言われたのだけど、強引に押し切った。
「お願いです、行かせてください!
ミュウは私の友達なんです!」
そのときのアイリーンさんの姿が、よくお姉さまに似ていた。
舗装されていない道を走っているので、ガタガタと車が激しく揺れる。
それでも私は高揚感に満ちていた。
だって私の時代には車すらなく、手段といえば徒歩かポケモンを使うしかなかったから。
モンスターボールといい車といい、時代はとても進んでいるのね!
ひたすら続く高い岩壁を見ていたら、急に車が止まって思わずこける。
(マサトくんは前座席に突っ込んでいた)
どうやら間欠泉が道を塞いでいるらしく、収まるまで近くにあった温泉に入ることとなった。
私は水着というものを持っていないので、足を浸ける程度だけど。
楽しそうに遊ぶサトシたちに笑みを浮かべていたら、いつの間にかルカリオが隣にいた。
「どうしたの?」
「いえ…」
「…隣、座ったら?」
「……失礼します」
大人しく従うルカリオに違和感を覚える。
いつもなら、「リース様の横に座ることなんて出来ません」とか言いそうなのに。
素直に座ってくれて嬉しいけど、何かあったのかしら。
ふと、ルカリオの視線がサトシたちに向いていることに気が付く。
……もしかして。
「――サトシたちが羨ましい?」
「!」
「って表情してる」
「……そんなこと」
「あるんじゃない?」
あるいはその姿をアーロン重ねているか。
なんでこうなったか、なんて私に分かるはずがない。
私だって直接アーロンに問い詰めたくなる。
私とルカリオを封印する意味はあったのか?なんて。
消しても消しても浮かんでくる疑問は、時間が経つにつれて一層より深いものとなっていくばかり。
「サトシ達楽しそう。……私ね、アーロンがあなたを捨てたなんて思えないの」
「でも私は確かに捨てられました。
激突する戦場の前で、アーロン様は……!」
「……私は、アーロンを信じる。
ルカリオの言うことが事実でも、イコール真実とは限らない。
もしかしたら守るためだったりして、ね」
「…私だってそう信じたい。ですがそれならばリース様のことはどうなのですか!?」
「そ、それは……」
「なぜリース様を封印する必要があったのですか。
アーロン様はあなたを、………理由がない」
「なんでだろうね……私にも分からないや…」
重い空気が漂っていた空間を切り裂いたのは、サトシの声と温泉に落ちる音だった。