サトシの持っていた杖から飛び出した影。
私の目の前に立っているのは彼の従者で、彼の一番の理解者だったルカリオ。
ひどく懐かしく感じるのは、ずっと私が眠っていたから?
ルカリオはどうしてか、波動を感じ取っていた。
その目は瞑られたまま………もしかして目が見えないの?
ルカリオは「アーロン様!」そう主君の名を叫びながら、サトシに詰め掛かる。
とうぜんルカリオを知らないサトシは困惑するわけで。


「何言ってんだよ!?」


その一言でルカリオは、そっと目を開き目の前のサトシを見上げる。
サトシがアーロンでないと知ったルカリオは突然ダンスホールを見回してベランダから飛び出した。
慌ててそこに駆け寄り身を乗り出すと、遥か下にいるルカリオはどこかに行ってしまう。
いや、あの方角には覚えがある……たしかアーロンとルカリオの部屋があったはず。
きっと、ううん絶対そこに向かっている。
急いで部屋へ行こうと体を回転させたら、同時に回る視界。
感覚が、認知できない……私の目の前は真っ暗になった。






「う、ん……」

「お目覚めになりましたかリース様」

「あなたは…アイリーンさん?」

「はい。気分はどうですか」

「…最高、とは言い難いですね」

「まだ休んでいてください。よく考えたら百年以上も眠っていたのですから、体が動かなくて当然です」


パーティーも無理されていたのではないですか?
核心を突いたアイリーンさんの言葉に私は黙る。
……その通りだからだ。
最初は歩くこともできたが、サトシと踊ったあとは体が軋んでいた。
やはり肉体の時間も封印されていたといえど、少しずつ色んなものが蓄積されていったらしい。
まるで体中が石のように重い。
正直横になっていることしか出来ない、今は。
自分の状況をゆっくり把握しながら、気になっていたルカリオのことを訊ねた。
あれからルカリオはどうしたのだろう。
ここが百年以上の時が経った場所で、アーロンもお姉様もいない嘘みたいな現実。
おそらく混乱している、私がそうだったのだから……


「ルカリオにはもう全てお話しました。
最初は戸惑っていましたが、静かに戦争の時のことを語ってくれましたよ」

「そう、ですか」


あなたのことを話すとぜひお見舞いに来たいと言って、部屋の外で待機しています。会ってあげてください。
アイリーンさんはそう告げると、静かに部屋を出ていき、入れ替わりにルカリオが入ってきた。
ああ懐かしい、目頭が熱い。


「リース様、覚えておりますか?」

「もちろんよルカリオ。無事で良かった……またこうして会えるなんて思わなかったわ」

「私も驚いております、ここが未来なこと リース様も封印されていたこと」

「そうね…まさか封印されるなんて思いもよらなかった。
ルカリオ、あなたのことも…」

「……私はアーロン様に捨てられたのですっ」

「!そんなことあるわけない!
あなた達が深く信頼していたことは私にだって分かるわ!!」

「ですが事実です」

「っ…ルカリオの馬鹿!」

「……」


アーロンがルカリオを捨てた?そんなことあり得ない!
二人はいつも一緒で、信頼しあっていたのを私は知っている。
退屈だった日常に光を与えてくれたのも、知らなかった色々なことを教えてくれたのも。
私だけが知っている。
ルカリオは何か勘違いしているのよ。
でもきっと、あんなにアーロンが好きだったルカリオにそう思わせるくらいの出来事があったんだろう。
そして知るのは本人だけ……
そう考えると無性に悲しくなってきて、涙を見せまいと彼に背を向け布団を深くかぶった。
そして静かに時は流れる。


「アーロン…私、あなたが分からないわ……」







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