そう言ってサトシを立ち上がらせると、横に座すアイリーンを見た。
どうぞと柔らかい言葉を受け取ったのでサトシの手を引き、ホールの中心へ。
構えると周りの人が私達から少し距離をとった。
「私の歩調に合わせて」
「ちょ、オレ無理……!」
だってと言い切る前に彼女はステップを始めていた。
二人が踊り始めると、みんなダンスを止め二人に注目する。
視線を感じサトシが頬を赤く染めると、彼女はクスリと笑みを零す。
ゆるやかな曲に合わせて右へ左へとステップしながらサトシを引っ張る。
慣れないことにサトシは下ばかり見て相手の足を踏まないように注意していた。
たまに顔を上げると彼女が微笑みかけてきて、何だか顔が熱くなる気がした。
音楽が終わると拍手喝采がして、これだけの人に見られていたと思うとサトシは急に恥ずかしくなり慌てて席に着いたのだった。
「どうだったサトシ?初めてのご感想は」
「なんかみんなに注目されてすっごく恥ずかしかったけど楽しかったぜ。
それにしてもダンス上手だよな、お姫様だからか?」
「まあ一通りのことはね。
良かった、サトシくんも十分上手だったわよ」
「ホント?やったぜ!」
「リースさあぁぁあん!!次はぜひこの僕と踊って頂けませんか!?」
「いいわよタケシくん」
「ありがとうございます!ではあちらで……っ」
「エスコートお願いね?」
サトシとのダンスを見ていたタケシが彼女をお誘いして二人行ってしまうと、サトシはなぜか嫌な気がした。
胸のうちに溢れる黒いモヤモヤ。
彼女の背中を見ていると変な気持ちになった。
「んだよこれ……」
「さあ今宵のパーティーはこれにて終幕です。波動の勇者が皆様をお見送りいたします」
アイリーンの閉会宣言と同時に集まる視線にサトシは戸惑う。
助けを求めて視線を彷徨わせるとアイリーンの側近が、目で後ろの絵画を指した。
勇者アーロンが杖を両手に掲げる勇ましい姿。
同じようにポーズを取ると周りから歓声が上がった。
「なぜ…ですか……」
突然聞こえた謎の声。
誰かと思って見渡してみても、側近は声すら聞こえていないらしい。
不思議に思いながらも杖を仰ぐとまた声がした。
「なぜですか……!」
「!っこの中に何かいる!!」
急に光り始めた杖にサトシが押さえていると、まばゆい光を放って何かが飛び出した。
青い体、胸のトゲ、黒とのコントラスト――…彼とよく似たその面影は。
「アーロン様……!」
「ルカ…リオ!」