宗三と夜を明かした次の朝、私は結局皆にすべて話すことにした。
私はもうすぐ現世へ帰ること、もう戦う必要はないこと、今までの感謝、いなくなることへの謝罪。
話し出せばきりがなかったけれど、昨夜から何とかまとめた内容を言い終わるころには、泣いている刀剣もいたりして、やっぱり私も悲しくなって。
けれど、不思議と涙は出なかった。
主らしく、ずっとそう思っていたから。
ここで私が泣いたら、主としては失格だろうと、そう思ったのかもしれない。
せめて最後まで、自分で追った理想だけは。
「泣かないの、清光。
わかってたことなんだから。
私のこと、すぐに現世に帰してくれるって、そのために頑張るって、言ってくれたでしょ」
敬愛と親愛は、やっぱり少し違うのかもしれない。
出会った当初の清光はきっと、私を敬愛してくれていた。
だから私が一刻も早くいるべきところへ帰るべく尽力すると、言ってくれたのだろう。
けれど今は、離れたくないと、思ってくれているのかな。
私がそう思っているように。
「もう、出陣も遠征も必要ないから。
残された時間、皆で過ごそうね」
それが、私の出した結論だ。
迷って、恐れて、踏み外して、出した結論。
やっぱり誰のことも傷つけたくない私に残された、唯一の選択肢。
ここへ至るまでに随分と遠回りをしてしまったけれど、きっとこれで、後悔なく去っていけるだろう。
その日から私は引っ張りだこ状態だった。
毎日出かけたり、誰かと過ごしたり、誰かが部屋を訪れたり。
多分、皆の間で順番が決まっていたのだろう。
そう感じるくらい、皆同じ日数だけ、私と過ごした。
宗三は、昼間は来ない代わりに、毎晩私の部屋に来た。
他愛のないことを話した夜も、ただ手を握り合って過ごした夜も、時にお互いを求めあうような夜もあって、それを幾度も繰り返して。
そうしてついに、その知らせは来た。
「……今夜、政府役人が迎えに来るって」
「随分急なんだね」
「まあ、いつ呼ばれてもいいように準備しろって言われてたし」
纏める荷物もないのだから、指されていたのは心の準備の方だったのだろう。
私は先日まで、みんなに知られないように少しづつ、全員に手紙を書いていた。
それも、もう済んでいる今、思い残すことは何もない。
「……俺、主に出会えてよかった。
沖田君と主、どっちのほうが好きかなんて決められないけど……俺にとっては、沖田君も主も、安定も……同じくらい、大切だよ。
これから先も、ずっと」
「……ありがとう」
そんな風に言ってもらえるなら、これ以上ないくらいに幸せだ。
「絶対、ここにいる全員そう思ってるよ」
「そうだと、いいな」
清光が皆に知らせに行ってくれたので私はぼんやり庭を眺めていた。
この庭がいつも綺麗だったから、ここでひととせ巡るのを眺めていられたのは幸運だったのだろう。
花を見るたび、宗三の顔がよぎることに苦笑する。
いい一年だったと、実感する。
不意に遠くからにぎやかな足音が聞こえてきた。
雪崩れ込んできた短刀たちと遅れてきた面子を笑顔で迎え、もうほんの少ししか残されていない時を、その幸福を、ただ噛みしめて、そうしているうちに、
その時は来た。
黒子のような面をつけた政府役人が現れ、私は皆に最後のお別れを告げる。
そのとき、宗三が声を上げた。
「数分だけ、審神者と二人きりにしていただきたいのですが」
「……速やかに済ませていただけるようお願いいたします」
一応挨拶は済ませていたので、何の用かと宗三の顔を見やる。
宗三は懐から、銀色に輝くリングを取り出した。
「これを、最後に、貴女に差し上げます。
今まで本当に、ありがとうございました。
僕は貴女に出会えてよかった。
愛しています」
あまりにまっすぐな言葉に私は一瞬泣きそうになってしまったけれど何とかこらえ、リングを受け取る。
「……ありがとう、嬉しい。
返せるもの、何もないけど……」
「構いません、代わりに……貴女の笑顔を、最後まで、見せていただけませんか。
焼かれても、再刀されても、絶対に忘れないように」
「……うん」
「……やはり貴女は美しい方です、帰っても、自信を持って生きてください」
ここへ来る前は難しかったかもしれないけど、今なら、忘れてしまっても自信を持って生きられる気がする。
言葉にできないほどの感謝と、幸福感と、少しの寂しさを抱いたまま、私はついに現世へと帰った。