薬研と出かけて、帰った夜。
屋敷に戻ると、薬研に大広間へ行くよう促され。
襖を開けると、皆が迎えてくれた。
「主、就任一周年おめでとう!」
満面の笑みで言ってくれたのは清光だ。
私はというと、驚いて言葉が出ない。
「……覚えてたの?」
「俺と主が出会った日じゃん、忘れるわけないでしょ。
主、今まで一年頑張ってたし……これから戦いがどれくらい続くかわからないけど、一区切りってことで主のことねぎらおうかなって」
「……審神者、見て。
この花飾り、うまくできてるかな」
よく学芸会なんかで見かける、薄い色紙で作った花飾りが処々に飾られている。
聞けば、短刀皆で作ってくれたらしい。
清光を筆頭に新選組や打刀の皆が企画、光忠や歌仙が私の好物を作ってくれたようで。
本当に、私は恵まれているのだと感じた。
今まで生きてきた中で、こんなにも誰かと絆を深めることができただろうか。
うれしく思うのと同時に、ようやくきちんと、審神者としての自分を認めることができたような気がした。
「審神者」
「あ、……宗三」
今日出かけていたという宗三と顔を合わせるのは朝食以来だ。
宗三は私の耳元に顔を寄せて、やっと聞き取れるくらいの声で囁いた。
「後ほど、僕が今日選んできた着物を、部屋の前に置きに行きます。
いろいろと悩みましたが、僕は貴女を自分のものにしてしまいたいというふうに結論付けました。
貴女が僕を受け入れてくださるのでしたら、今夜、それを着て、待っていてください」
宗三の言っている意味が分からない私ではない。
私の考えていることが正しいと、真っ赤になった宗三の耳が示していた。
なんだか、不思議な気分だった。
「ちょっと、今日くらい宗三ばっかり主のこと独占するのやめてよね」
安定に腕をひかれ、皆の中心へと移動する。
「ごめんね、最近宗三とばかり過ごしてて。
それなのに、こんな場を設けてくれてありがとう」
「別に、普段は主が一緒にいたい人といたらいいんじゃない」
「それに、主がそんなに極端に宗三とばっかりいるとは思ってないよ」
「ほんと、主はいらないことばっかり考えるよね。
そういうところ、嫌いじゃないけど」
「……ありがとう」
清光と安定には、特に助けてもらったかもしれない。
二人は人と人の間に立つのが、案外上手だ。
個性の強い刀剣たちの中で、緩衝の役目をして貰ったことも多かった。
「主、何が食べたい?
何でも好きな物言ってよ」
光忠は、私がまだもっと未熟だったころ、初めて来てくれた太刀だった。
頼ってしまうことも多かったし、苦労を掛けただろうに、いつも笑顔でいてくれた彼はとても偉大だと思う。
「大将、杯が空じゃないか?」
「主、僕に注がせてください!」
「ではその次は僕が!」
「こらこら、そんなに強く勧めてはご迷惑だよ」
ずっと私と寄り添ってくれた薬研、いつでも共にあると言ってくれた平野と前田、ここへ来てからずっと兄弟を見てくれた一期。
「主、これからも何かあったら頼ってくれていいからね!」
次郎太刀にも随分助けてもらった。
「僕もこれからもっと主の力になりたいな!」
乱はずっと可愛い妹のような存在で、支えてもらったこともたくさんあった。
「あるじさま、みてください!
このみつまめ、ぼくとさよくんでつくったんですよ!」
三条の中でも実は上の立場だったらしい今剣は、リーダーシップを発揮していつも皆を導いてくれた。
「これは小夜も協力したのかい、なかなかよくできているね」
歌仙は周りと衝突することもあったけれど、いつでも頼りになったし、みすぼらしい恰好をしていたころの私を誰より案じてくれていた。
兼さんと堀川くんは、元の主のことを思い出させるような場所へと出撃させてしまう私に文句の一つも言わずにいてくれた。
最近来てくれたばかりの三日月さんは、いつでも私や皆を見守ってくれている。
江雪さんと小夜は、ずっと私と宗三のことを応援してくれていた。
そして何より。
私は、宗三に出会えた。
それだけで、ここへ来られてよかったと思う。
最高の仲間に囲まれて、最愛の人に出会えて、私はなんて幸福なのか。
この日々がいつ終わるかはわからないけれど、それまでは全力で、皆の気持ちに応えよう。
いつだって前を向いて、明日のことを考えていよう。
そうすればきっと、いつか訪れる別れの日も笑顔でいられるだろう。