寒さも厳しくなる中、早いものでもう年の瀬だ。
年明けに向けて、審神者も掃除を進めている。
「こんなに広い家屋だと、掃除が大変………」
襖や障子が多く、障子の張り替えや敷居の掃除も楽ではない。
「少し休んではどうですか、僕が代わります」
「私の部屋なのに悪いよ。
宗三の部屋は終わったの?」
「僕たちの部屋は、あまりものがありませんから」
三人で使うために広い部屋をいただいているものの、そもそも物が少なければ大変ではない。
「いらない書類も整理しなくちゃ……」
審神者は私物もそうだが政府からの書類も多い。
加えて審神者本人が、整理整頓が得意とは言い難いのだ。
「いらない書類を寄越してください、纏めておきます」
「……じゃあ、お願いしようかな、ありがとう」
こうして押せば手伝いも受け入れるようになったのは、進展と受け取っていいのか。
その時ばかりは嬉しく思ったものだが、あまりに心を開かれるのも考えものだと、僕は後から思い知ることになる。
「宗三ぁ、お酒足りてるー?」
どうしてこんなことになったのか。
次郎太刀が宴会を持ちかけ、審神者が承諾したまではまだいい。
問題は酔っぱらいと化した審神者だ。
「宗三冷たくて気持ちいい……」
「離れなさい、だらしがない!」
恋仲となった今でも、僕はおいそれと審神者に触れたりはしない。
それは自戒の意味もあるし、一度触れてしまえば後戻りできなくなる可能性を恐れているからだ。
それは審神者も感じ取っているのか、審神者から触れてくることもなかったのに。
「なんで?
宗三は私のこと嫌い?」
そんな風に言われてしまえば拒否もしにくい。
かと言って、好きだからこそ離れてほしいと言うのか?
こんな、人前で。
「飲み過ぎです、もう休みなさい」
「……じゃあ、宗三が抱っこして連れて行って」
そう行って両腕を広げる審神者は、年齢以上に幼く見えた。
普段は大人のような言動を崩さない審神者だが、実際は不安になる本心を律しているのも何となくわかっている。
拒むことはできなかった。
「仕方ありませんね……」
短刀のくせに何故か参加していた薬研が、にやにやとこちらを見ていた。
審神者は着物なので、必然的に横抱きにすることになる。
というか、子供を抱くのと同じように審神者を扱うのにはさすがに抵抗がある。
軽いとは言い難いが見栄を張れないほど重くもないので、そのまま広間を出た。
「宗三ぁ、月が綺麗だね?」
言われて見上げると、確かに少し欠けた月がくっきりと浮かんでいた。
「……えぇ、綺麗ですね」
「もう、現代で月が綺麗ですねって言ったらー、愛してるって意味なんだよ?」
何がおかしいのか、けらけらと笑う審神者。
正直酔っぱらいに言われても困る。
「酔って運ばれている身分で僕を煽るとは、いい度胸ですね。
勢いに任せて、貴方を傷物にするかもしれませんよ」
「嘘だね、宗三はそんなことしない」
酔っぱらいのくせに、こういうときばかりはっきり物を言うのは何故なのか。
「……次は素面のときに言ってください」
「ふふ、わかったよ」
幸せそうに呟いた審神者はそれっきり眠ってしまったようで。
仕方ないとついたため息まで浮かれて聞こえた僕は、そんな自分に呆れつつ、悪くないなんて思っていた。