朝起きると、頭の中が随分すっきりしていた。
自分でも気づかないうちに、大分疲れていたのだろうと思う。
体を起こすが、妙に寒い。
縁側へ続く障子を開けると、雪が真っ白に降り積もっていた。
辺りを塗りつぶす白が眩しい。
いつの間にか、すっかり冬になっていたようだ。
「おや審神者、おはようございます」
「あ……宗三」
昨日の今日で反応に迷う私とは裏腹に、宗三は何事もなかったかのような顔で続けた。
「火鉢を持ってきました、今日は冷えますから」
気持ちは嬉しいのだが、あまり寝起きの顔を見られたくはない。
そう言おうとしたら、宗三はわかっているという風に腰を上げた。
「また後で、来ても構いませんか」
「……うん、いいよ」
まっすぐ顔を見るのも少し気恥ずかしかったが、私も昨日の返事をしたかったので了承した。
広間に行けば、やはり昨日の出来事はみんなに心配をかけてしまったようで、もう二度としないでくれと釘を刺されてしまった。
今日は出陣も書類整理も休むことになり、暇を持て余しながら宗三を待つ。
何の気なしに外に目をやれば、先ほどはやんでいた雪がまた降り出していた。
遠くから短刀の声が聞こえる。
私がみんなを軽んじていたことを、きっと私以外の誰も、今後知ることは無いだろう。
私はやっぱり、成り行きに身を任せることにした。
戦いは終わらせなければいけないけれど、私はここを早々に立ち去りたくはない。
離れなければならない時が来れば従うが、そこへ向かって急ぎ足になる必要はない。
……なんて、宗三一人のために意見を二転三転させる私は宗三の言う通り、二十歳にも満たない人間でしかないのだ。
付喪神やわけのわからない生き物が関わる戦いに、直接影響することもできないのだから。
成り行きに任せるほかないだろう。
そう思えて少し、すっきりした。
「審神者、入ってもいいですか」
「ああ、宗三……いいよ」
自分がこれから話そうとしていることを想うと、少し緊張する。
けれど、宗三の方から先に伝えてくれたのだし、宗三と気持ちが通じ合うと思えば軽いものだ。
「今日は本当に冷えますね……必要なものはありませんか」
「大丈夫、宗三は困ってない?」
「大丈夫です」
会話が途切れて沈黙が訪れる。
宗三をちらりと見ると目が合って、宗三は緩く微笑んだ。
綺麗な人だな、と思った。
「宗三さ……昨日、私のこと、好きだって言ってくれたよね」
宗三が切れ長の目を見開く。
「私も、宗三のこと好きだよ。
……多分、宗三と同じ意味で」
きっと、宗三は色々なことに気づいていたと思う。
いずれ別れなければいけないこと、人間と神の壁。
それでも、何も言わずにいてくれた。
「……嘘だと言っても聞きませんよ」
「嘘じゃないよ」
私が言い終わる前に、宗三が私を抱きしめた。
宗三からは、静かなお香の香りがした。