君を飾る全て | ナノ


ぼんやりと意識が浮上するのを感じた。



目を開けると、見慣れた部屋の天井が見える。



確か、昼食を食べて部屋に戻る途中で意識を失ったのか。



皆に心配をかけてしまったのだろうな。



自惚れているわけではないが、きっと皆心配してくれたのだろう、皆と別れるために尽力していた私を。



でも、どうしたらいいというのか。



戦いを終わらせるのは平和のためで、政府の望みで、世界を守ることは自分を守ることにもつながるのだ。



でも、私を慕ってくれているであろう刀剣たちの思いはどうなるのか。



この戦いのシステムは、どうにも義務と我儘の釣り合いを取りにくい。



不意に、襖が開いた。



頭を動かしつつ声で相手を判断しようとした私に声をかけたのは、意外すぎる人物。



「目が、覚めたのですね」



「……宗三?」



宗三に会いたいと無意識に望んでいたために聞き間違えたのかと思ったが、耳に入り込んでくる滑らかな声と暗闇に浮かび上がる桃色の髪は、間違いなく宗三のものだった。



何を言ったらいいのかわからずにいる私に、宗三は以前と変わらない声音で話しかける。



「横になったままで結構ですよ。



気分はどうですか」



「大分いい、けど」



「……貴女は、どうして無理をしたんですか」



「そ、それは……」



戦いを早く終わらせるため、と言えば聞こえはいいが、宗三に嫌われたから役目を終えて全て忘れるためだなんて、他の刀剣に慕ってもらっていることさえ全く顧みない理由を話せるはずもなく口ごもっていると宗三は息をついた。



「貴女が話したくないのであれば聞きません。



それよりも、僕は貴女に謝らなければならないことと、伝えたいことがあるんです」



私の傍らに膝をついた宗三は、一瞬迷うような表情を見せた後に口を開いた。



「先日は、貴女を突き放すようなことを言って……申し訳、ありませんでした。



放っておいてほしいというのは、その…本心ではないのです。



もし、許していただけるのであれば……また、以前と同じように、貴女の傍にいてもいいでしょうか」



きっと、宗三なりに考えた台詞なのは伝わった。



こういうことを面と向かって言えるタイプではないのは、重々わかっている。



宗三を許さないわけがない、私だって何だかんだ言いながら宗三と一緒にいたかった。



宗三と一緒にいられるなら、この戦いを焦らずずっと頑張ってもいい。



それでも、慕ってくれる皆を無下にして、自分のために戦いを終わらせようだなんて一瞬でも考えた私は、そんな風に言ってもらう資格はない。



その挙句に体調管理もできず心配をかけるなんて、私はどこまで役立たずなんだ。



「ど、どうして泣くのです、痛いところでもあるんですか、それとも……」



突然泣き出してしまった私に狼狽える宗三に、言葉を返すこともできない。



私のここ最近の心境を伝えれば、きっと宗三は私を今度こそ嫌いになるだろう。



「宗三に、お、怒ってないけど……私、駄目な主だから……」



何とかそれだけ言えば、宗三はため息をついた。



「……貴女はよく、いい主だの駄目な主だの言いますね。



最初に主として僕たちの格式を保てと言ったのは僕ですが、それ以前から重圧に耐えてきたのでしょう。



ですが言わせていただけば、貴女は所詮二十年も生きていない人間なんですよ。



出来ないこと、至らないことがあっても当然ではありませんか」



宗三はそこで一旦言葉を切った。



そして何度か躊躇うような素振りを見せ、もう一度口を開く。



「それでも、僕はそんな貴女に、その……恋を、しているようなので。



もし話して楽になるようなことがあるのなら、僕に聞かせて下さい。



きっとそう簡単に、貴女を嫌うことは無いでしょうから」



予想もしていなかった宗三の言葉に、私は返事をできなかった。



宗三が、私に、恋をしているだなんて。



「先日貴女に当たってしまったのは、きっと兄上と談笑していることに嫉妬をしてしまったからです。



……本当は告げるつもりはなかったのですが、言わなければ僕が貴女に八つ当たりしてしまった理由を、貴女は考えてしまうかと思いまして」



宗三を凝視したまま固まる私が困っているのだと勘違いしたらしい宗三は、眉を下げた。



「ああでも、気になさらないでくださいね。



伝えたかっただけですから、貴女が僕に気がなくても構いません。



ただ、今まで通りにさせていただければ満足です。



……では、僕は薬研を呼んできます……ゆっくり、休んでいてください」



宗三は言うだけ言って部屋を出て行ってしまった。



耳が赤かったように感じたのは気のせいではあるまい、らしくないことを言っていい逃げというのも珍しい。



けれど私の耳は、宗三以上に赤いのだと思う。


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