宗三の様子がおかしい。
最近親しくなれたと思っていたのに、妙に避けられているような気がするのだ。
いや、気がするのではない。
明らかに、避けられている。
部屋に訪ねてきてくれることもなくなったし、買い物に誘ってくれることもない。
以前にも気まずくなることはあったが、あれは私が怒らせたと思って避けていたので、理由もわからず避けられるのは初めてだ。
内番や遠征を頼めば引き受けてはくれるのだが、必要以上に話すことはなくなった。
別に業務に支障はないが、正直に言ってしまえば、寂しいのだ。
「どう思いますか、江雪さん」
「……宗三の口から、審神者に対する不満は聞きませんが」
江雪さんにも、思い当たることは無いようだった。
難しい人なのはわかっているが、渡しは宗三と仲良くしたいのに。
ため息をついたとき、部屋の障子が音もなく開いた。
ここは左文字兄弟の部屋で、入ってきたのは部屋の主の一人。
私が今、最も会いたかったその人は、私の姿を認めるなり踵を返して出て行ってしまった。
「宗三!」
私は江雪さんに断りを入れ、慌てて部屋を飛び出した。
「宗三、待って!」
呼び止めても立ち止まらない宗三の手を掴むと、ようやく宗三は歩みを止めた。
それでも、振り返って私の顔を見ようとはしない。
「……今の顔を、貴女に見られたくはありません」
絞り出すような声に、私はなんて答えたらいいのか。
「……私、何かしたのかな。
至らない、主だから……言ってもらえないと、わからないよ」
宗三の表情は、微かに、そして目まぐるしく変化した。
そして私に告げられた答えは。
「……僕を、放っておいてください。
それ以外、僕が貴女に望むことは何もありません」
その言葉に、私は単純にショックを受けた。
自分が宗三のためにしてきたことはただの自己満足で、宗三は迷惑に思っていたのだろうか。
私は、自分が思っているより強くなんかないのだ。
好感を持っている相手から拒絶されれば、冷静な判断を失ってしまう。
いつだったか、宗三の方から放っておいてくれと言われるまではお節介を通そうと決めた。
今が、引き時なのか。
「……わかった、よ……今まで、ごめんね」
他人が自分をどう思っているかなんて、本当にはわからない。
親しいと思っていた相手が本当は自分を嫌っていたなんて、これまでの人生初めてではない。
それでもどうしてか胸が痛む気がするのは、きっと私が、宗三を好きだったから。
そう、好きだったのだ、ずっと前から。
けれど傷つきたくなくて、見ないふりをしていた。
私はみんなの主だからと、言い訳をして。
それを言い訳に使っては、それこそ主失格だったな。
悲しい。
視界がぼやけて涙が零れた。
泣くのなんて、いつ以来だろう。
私はずっと、どこかで気を張って生きてきた。
そんな中で、最初から飾らずぶつかってきた宗三の前では、いつでも自然体でいられたのに。
……止めよう、届かないものを望むのは。
宗三に依存することに意味はない。
その先には、何もない。
胸にぽっかり穴が空いたようだった。
それでも、立ち止まるわけにはいかない。
「仕事しよう……」
早く、早く戦いを終え、ここから解放されてしまおう。
審神者業を終了する際、審神者としての記憶はすべて消される決まりだ。
忘れてしまいたかった。
「あれ、主……どうしたの、元気ないね」
「安定……大丈夫、だよ……いつもと変わりない」
廊下の角で遭遇した安定は、探るような瞳を私に向けていた。
沖田総司の所持刀だった彼らは、人の変化に敏感だ。
気を付けなくては。
私を慕ってくれる刀がいるのは嬉しい、けれど戦いが早く終わるのを、望んでいけないことはないだろう。
そうだ、私は正しい。
戦いは終わるべきだ、私が終えるべきだ。
そうして私たちはあるべきところへ帰る、イレギュラーな時間はすべて忘れて。
それで、いいんだ。
持っているのが辛い思い出は、捨ててしまえばいい話。