暑気払いに幽霊ものの映画を観るので観たい人は離れに、という旨の通達を行ったところ、意外な人を含め結構な人数が集まった。
ちなみに、にっかり青江は来なかった。
「……宗三、来たんだ?
ちょっと意外」
「薬研に連れてこられたんです」
見ると粟田口は薬研と鳴狐、鯰尾と骨喰しかいない。
短刀はどうせ後で眠れなくなるのだから懸命か。
他は鶴丸さんに清光、安定、陸奥守、浦島くん、獅子王、蛍丸という面子。
明らかに鶴丸さんが一人浮いているが、若いということにしておこう。
「それでは皆さん準備はいいですか、つけますよ。
そういえば鶴丸さん、途中で驚かせたりしたら刀解しますからそのつもりでね」
お見通しか、なんて笑っているが冗談じゃない。
部屋を暗くして、いよいよ再生ボタンを押した。
「よく見えないな」
「ごめん薬研、明るくする?」
「いや、前に行くから気にしないでくれ。
大将はここに座んな」
薬研が前に出たので、私はなんとなく勧められるまま宗三の隣に座った。
さて、ようやく本編が始まるわけだが今日のチョイスは貞子さんが出る定番ホラーだ。
私は映画も観たし小説も読んだのでそれほど怖くはない。
冒頭に出てきた女の子は、友達と泊まりで遊びに行った際に妙なビデオを観たと言う。
それは、見たら一週間後に死んでしまう呪いのビデオで、今日で観てから一週間だと言うのだ。
沈黙の後、突然家の電話が鳴り出す。
女の子は怯えるが、電話は両親からのものだった。
安心した矢先、勝手にテレビがONとOFFを繰り返し……という導入だ。
既に若干名かなり動揺しているようで楽しい。
場面は変わって、中学生程の女の子がインタビューを受けている。
例の、呪いのビデオについてだ。
質問をしているジャーナリストの女性が今回のヒロインで、亡くなった女の子の伯母であり、一人息子を持つシングルマザーだ。
この女性が呪いのビデオに迫るうちに呪いをうけ、離婚した元夫と共に呪いを解く方法を探す、というストーリーになっている。
蛍丸、清光、鯰尾、浦島くんは素直にびっくりしていて可愛い。
鳴狐、薬研、、骨喰、鶴丸さん、陸奥守は時折軽く驚いているようだ。
そして、安定と宗三は無反応。
わかってはいたが、宗三が動揺するところも見てみたかったのに。
そんなこんなで、滞りなく映画も終盤だ。
途中、息子も呪いにかかってしまい、必死になって呪いを解く方法を探した二人は、井戸に捨てられてしまった貞子の死体を見つけ、供養することを思い付く。
ヒロインがビデオを観てからぴったり一週間が経っても死ななかったことから、呪いは解けたと安堵する二人だが、実はそんなことはない。
元夫は、ヒロインの次の日にビデオを観た。
呪いを解く手がかりのために、ヒロインがダビングしたものを自ら観たのだ。
実は、これが呪いを解く方法だった。
ダビングして元夫に見せた時点で、女性は呪いを解いていた。
そして、元夫はまだ解いていない。
そしてそのまま、一週間が経つ。
ここからがあの有名なシーンだ。
勝手にテレビが付き、ビデオは入っていないはずなのに例の呪いの映像が再生される。
最初に観たときは井戸が映されて終わりだった映像が続き、井戸から女性が這い出てくる。
そして、どんどんこちらに近づいてきて、ついに画面から出てくるのだ。
展開を知っていても緊張する。
そして私は、不意に妙な息づかいに気づいた。
鶴丸さんは、私の視界に入っている。
全員ここから数えることもできる。
落ち着け、きっと誰かが悪戯に忍び込んだんだと、そう思うことで冷静を保とうとしたが。
「がうっ」
「きゃああああ!?」
「うわぁあああ!!」
映画の方も正にアレなシーンだったので、私の悲鳴はみんなを驚かせてしまったようだがそれどころではない。
「宗三、宗三!
何かいる!」
「落ち着きなさい、虎ですよ!」
「…………虎?」
恐る恐る宗三の胸に押し付けていた顔を上げると、そこには五虎退の虎くんがいた。
「………そろそろ離れていただいても?」
「あ、ごめん……」
結局、私が一番怖がってしまった。
薬研におかしそうに笑われた。