兄上の袈裟を被った審神者を見たときの感情の名前は、よくわからない。
何かに対する焦りと、兄上に対する劣等感、それに、諦めも混ざったような奇妙な感情。
なんとなく嫌悪にも似たその気持ちから、僕は審神者を避けた。
こんな僕を見られたくなかったし、何より僕が審神者を見たくなかった。
彼女を慕う気持ちが、育ってしまわないように。
兄上は、僕の自慢の兄だ。
強いのに穏やかで思いやりに溢れており、聡明で美しい。
だから、兄上と審神者が親しくなれば、僕は見向きもされなくなってしまうと思った。
彼女を慕う気持ちが強いほど、それは耐えられない。
そうして僕は審神者を避け、自分を嫌悪した。
やがて、消えてしまいたいとまで願った。
そこへ、審神者がやってきた。
彼女はああやって、僕が欲しいと願う言葉を僕に与えてしまう。
だから僕はまた、彼女の側に在りたいと願ってしまうんだろう。
僕が彼女に差し上げられるのは、金子で買えるものだけだというのに。
それだって、彼女を飾りたい自己満足に過ぎない。
僕は、彼女とどうありたいのだろう。
僕の心をこんなにも乱す彼女を思う、憎悪にも似た気持ち。
人の心なんて、厄介だ。