朝、気怠い体を起こして脳の覚醒を待ちながら、身支度を整えるために鏡を見る。
いつも通りの流れだけれど、明らかにいつもよりまずい点が一つあった。
私の顔だ。
今更不美人な造形は置いておくとしても、顔色と目の下の隈がまずい。
原因ははっきりしている、どう考えても昨夜の夜更かしだ。
やっと届いた本を読んでいて夢中になり、つい明け方近くまで起きてしまっていた。
おしろいで若干誤魔化すことはできたが、これではきっと、人の不調に敏感でよくできた近侍にはばれてしまう。
今までも何度か注意されているので、きっと今日も怒られる。
そんな私の推測は、残念ながら外れなかった。
「大将、昨夜夜更かししたな?」
薬研に確信しているような口調で聞かれると嘘をつくことすら諦めるしかなく、私は正直に肯定した。
「……ごめんなさい」
「別に怒ってるわけじゃないが、大将がそんなだと示しがつかないぜ?
昨日は何してたんだ」
「少しだけ、本読んでた」
「以前もそうだったが、その時もつい夜更かししただけだから気を付けるって言ってたと思うけどな」
あ、本気で怒らせた、なんて思ったのが顔に出たのか、薬研が失敗したというような顔をした。
「悪い、言い過ぎた。
……体調を崩しそうで心配だって言いたかっただけなんだ」
気を遣わせてしまったことが逆に申し訳なく薬研の目を見られずにいると、薬研が唐突に提案した。
「……大将が嫌じゃなければ今夜、眠れるまで俺が隣にいる、っていうのはどうだ」
提案の内容があまりに突飛で私は一瞬言葉を失った。
「もちろん嫌じゃなければ、の話だが……」
ここで嫌じゃない、と半ば無意識のように出てしまったのは、私の薬研に対する気持ちの表れなんだろうか。
薬研は一瞬だけ安心したような顔を見せた後、いつものように微笑んで言った。
「弟たちが眠ったら行く。
眠れそうなら先に寝ててくれ」
きっとそんなことできるはずがないのはわかっているんだろうに、あくまで余裕そうな態度を崩さないところはとても薬研らしく。
そんなところに惹かれているのは、私だって自覚しいるのだ。
その夜薬研は、私が普段布団に入る時間よりずっと早く部屋へ来た。
「私が寝るまで帰らないの?」
「そのつもりだが、困るかい?」
「薬研が寝るのが遅くなるかな、って思って」
「俺たちは人間ほどは睡眠が重要じゃないから気にしないでくれ」
薬研は私の目を少し冷たい手で覆い、いろいろな話をしてくれて。
いつもより早い時間で、隣に薬研がいて緊張していたにもかかわらず、私は久しぶりなくらいに熟睡していた。
薬研の囁く声が耳に心地良い、そんな夜の話。
fin.