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「主さん、いますか?」



障子越しに聞こえた声は、脇差の堀川国広くんだ。



「いるよ、入って」



私はキーボードを叩く手を止め、堀川くんを招き入れた。



「お仕事中でしたか?



すみません、急にお邪魔して。



お茶とお菓子を持ってきたので、一息いれませんか」


堀川くんは甲斐甲斐しい。



敬愛しているらしい和泉守さんによく尽くしているけれど、私や他の刀剣にも気を遣ってくれるのでいつも本当に助かっている。



「わざわざありがとう、堀川くん」



今も庭で洗濯をした直後だろう、先程五虎退と洗濯物を干しているのを見た。



「堀川くんはいいお嫁さんになりそうだね」



「お嫁さんなんですか?」



言いながら堀川くんが置いた皿の上には、クッキーが乗っていた。



「クッキーなんて買ったっけ?」



この本丸には、洋菓子に慣れていない方が多いので、いつも買うなら和菓子を選んでいたはずだ。



私としては卵やバターたっぷりのお菓子を食べたい時もあるが、ただでさえ細くない体を太くしたくないので我慢している。



光忠さんや堀川くんの作るご飯は美味しいし。



「僕が焼いてみたんです。



万屋で材料を売っていたので」



焼いたのか。



女子力か。



「すごいね、そんなに馴染みもないだろうに」



「食べてみてください、一応味見もしたので」



「うん、いただきます」



一つ手に取ってかじると、まだ温かいそれは標準より少し甘めで美味しかった。



「すごい、美味しい」



「本当ですか?



良かったです。」



もう一枚と手を伸ばす。



かなり久しぶりのバターの風味だ。



「やっぱり疲労回復には甘いものだよね」



「主さんに喜んでもらえるなら、また作りますよ」



でもこういったものは、和泉守さんにとっては甘過ぎはしないか。



それとも意外と甘党なのか。



「和泉守さんって甘党なの?」



「いえ、兼さんは甘いものは苦手ですよ」



「え、じゃあどうして………」



和泉守さんに作ったついでに、私にお裾分けしてくれたものとばかり思っていた。



「主さんのために作ったんです」



「え……あ、ありがとう」



なんだか恥ずかしくなってしまう、いつも兼さん兼さん言ってるくせに。



「また作りますね。



主さんに喜んでもらえたら、僕も嬉しいですから」



そんなふうに献身的にしてもらえるのは嬉しいけど、私からも何かしたほうがいいのかもしれない。



いつも内番以外の家事も任せてしまっているのだし。



「堀川くんは好きなもの、ある?



何かお返ししたいな」



「え、お返しですか?



別に特には気を遣わないでほしいですけど、そういうことなら」



堀川くんは控えめに微笑んで、身を乗り出した。



「え、」



「お返しは次からもこれでお願いします」



「あの、」



「主さんの唇、クッキーの味がしますね。



次はチョコレートの味もいいと思うんです。



楽しみにしていてくださいね」



多分、今すごく顔が赤い。



もう、なんだあの子。



お菓子は楽しみだけど、別にその後の『お返し』が楽しみなわけでは。



嫌でもないけど。



「やられた……」



とんだ小悪魔だ。

Fin.



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