梅雨が明け、昼間の気温は上がりだしているが夜風は涼しい季節。
私は縁側で一人、星を眺めていた。
流石、現世とは違い夜空が美しい。
こんなにたくさんの星があるなんて、ここに来るまでは知らなかったことだ。
加えて今夜は七夕ということもあり、天の川が綺麗に見えている。
つい先日まで雨ばかりだっただけに、晴れて良かったと思う。
「こんなところで一人で月見とはな」
「あら、鶴丸。
珍しいのね、驚かせて来ないなんて」
「一人で空を眺めているところを邪魔するほど無粋ではないさ」
「それに、今日眺めてたのは月じゃないわ。
あれ、天の川っていうのよ」
私と主従のみならず恋仲でもある鶴丸は、私の隣に座って肩を寄せた。
「天の川?」
「織姫っていう女性と彦星っていう男性が、一年に一度だけ現れる天の川を渡って会うの。
今日が終わったら、二人はまた離ればなれなんだけどね」
「ふむ、一年に一度しか会えないのか」
「恋に溺れて役目を蔑ろにしてしまったからね」
役目を放棄するつもりはないが、私も、いつか罰せられるときが来るのだろうか。
全く、他人事ではない。
「ねえ、鶴丸は私と一年に一度しか会えなくなったらどうする?」
鶴丸は少し考えて言った。
「俺は神だからな、時間も空も軽く越えて、君に会いに行くさ」
彼があまりにあっさりと答えるので、私も不思議とそれを信じることができた。
「俺は君がいない世界を生きることはできないからな」
「………嘘」
「嘘なんかじゃない」
鶴丸の蜂蜜色の瞳が、じっと私を見つめた。
深い深い底で情熱を揺らす瞳は、星よりも、月よりも美しい。
「鶴丸」
「何だ」
「愛してるわ」
「ああ、俺もだ」
誰かが私たちに天罰を与えようとも、私たちはそれを乗り越えられるような気がした。
古の二人と同じ過ちを繰り返そうとも、同じ轍を踏みはしない。
そう誓った、星の美しい夜。
fin.