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その日は穏やかな午後だった。



第二部隊は遠征に行き、第一部隊は買い物に行き、第三部隊の短刀たちは午前中で遊び疲れて少し前に大部屋で仲良く昼寝を始めていた。



私は書類仕事も終え、庭をぼんやりと眺めながら、歌仙でも誘ってお茶を飲むかと考えていた。



そんな中、とても珍しい来客に、私は驚くことなる。



「大倶利伽羅?」



障子の陰から顔を出したのは、群れないことで有名な大倶利伽羅だった。



「………悪いか」



「別に、悪くないけど。



珍しいなと思って」



彼は根は優しく真面目な男だが、いかんせん協調性がない。



縁が深くかつコミュニケーション力の高い、燭台切光忠や鶴丸国永のような男がしつこく話しかけて初めて、しぶしぶとばかりにまともに反応するような男だ。



そんな大倶利伽羅が、私に一体何の用だと言うのだろう。



「何かあった?」



「別に………」



まあ用がないならないで、構わないけれど。



「お茶、飲む?」



「………俺が淹れる」



そう申し出るのはわかっていた。



彼は案外真面目で紳士なのだ。



そして、お茶を淹れるのが上手い。



私がそれを褒めてから、彼が私に淹れさせたことはなかった。



「大倶利伽羅のお茶は美味しいね」



流石伊達男、と言ったところか。



褒めても特段喜ぶわけではないのだが、顔を背けるのは照れているのだと解釈する。



「庭の紫陽花が、もうすぐ見頃だよ」



「………そうか」



返事をする以外は黙ってお茶をすする大倶利伽羅を眺める。



袖口から龍の刺青が覗く腕が、穏やかな日に照らされてきらきらしていた。



「良くない夢を見ただろう」



「………………誰が?」



「あんたが」



面食らって反応が遅れてしまった。



確かに私は昨夜、嫌な夢を見た。



けれどそれは、誰にも話していないというのに。



「どうして知ってるの」



「顔を見ればわかる。



他の奴も気付いてるぞ」



悪い夢を見ることなんて、特別なことではない。



体調不良や熱帯夜、その他諸々の理由で、特に不安を抱えている人間でなくても見るものだ。



「別に、人間にはよくあることなんだよ」



別に、私が気にしているわけでもない。



顔に出ていたことが不思議なくらいだ。



所詮夢なのだから。



もしかして、それを案じて来てくれたのだろうか。



「心配、してくれたの?」



返事はなかった。



私はその無言を肯定と受け取る。



「悪い夢なんて、どうと言うこともないよ。



こうしてみんながいることが、現実だから」



眠っている間の作り話を、真に受けるつもりもない。



「こうして、大倶利伽羅が心配してくれるし」



「………ふん」



そっぽを向いた大倶利伽羅は、私に半分に折った座布団を寄越した。



「………寝ろ」



つまり、夢見が悪くて寝不足だろうから寝ろということか。



そこで私は、いいことを思いついた。



「大倶利伽羅の腕、貸して」



「断る」



「えー」



「………好きにしろ」



つい笑みがこぼれた。



私は大倶利伽羅を巻き込んで横になり、私の好きな、褐色の腕に頭を乗せた。



「大倶利伽羅の腕、好き」



返事はない、そんな彼を愛しく思う。



「おやすみ、大倶利伽羅。



きっと君となら、いい夢を見られる」



穏やかな金色の午後の話。

fin.



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