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歴史改変主義者が、幕末の池田屋事件を改変しようとしているとのお達しが政府から届いた瞬間。



私はただひたすら、彼のことを考えていた。



新撰組一番隊隊長を敬愛してやまない刀剣男士、大和守安定のことを。



私は彼に惹かれていた。



同じく池田屋事件に携わり、どうやらそこで使い物にならなくなったらしい加州清光を差し置いて、彼を心配するくらいには。



彼はいつでも危うかった。



穏やかな振りで、実は内心穏やかだった瞬間なんてないのだ。



事実、彼は夜更けに何度も私の部屋に来た。



不安を吐露し、沖田の元に行きたいと零し、そうして黙って眠りにつく、そんな夜は数えきれない。



沖田の実物を見たら、彼はきっと、張り詰めた最後の糸さえ切れてしまうだろう。



それなのに、彼は言うのだ。



『僕を、池田屋に行かせて』と。



「何故、行きたいの」



「沖田くんに会いたい」



「顔を合わせてはいけないんだよ」



「わかってる」



わかってるけど、と呟く安定の瞳が揺らいでいた。



「辛いだけだろう」



「一目見られれば、それでいいんだ」



「君は夜目も効かないし、練度を鑑みても許可出来ない」



「沖田くんに会えたら、死んでもいい」



全く、利己的な話だ。



私も、彼も。



安定は、彼を失いたくない私を無視し。



私は、沖田に会いたい彼を押さえつける。



それでも私は大概彼に甘いので、きっと許してしまうんだ。



「わかったよ………ただし、必ず、戻ってきて」



「うん、約束する」



絡ませた小指、交わした視線。



そんなものに、意味はない。



「君も行きたいのかい」



後日、自分も池田屋に行きたいと言った加州清光に、私は驚いて問いかけた。



「行きたい、とは違うけど………あいつが行くなら、俺も行かなきゃいけない。



歴史を変えないように見張る役も必要だし」



愛されたい、大切にされたい我が儘な子。



それでも、加州清光は、大和守安定を大切にしていた。



加州は優しい。



そして何より、強かった。



川の下の子と言うだけあって、割りきることに慣れていたし、悲しみを乗り越える強さがあった。



安定にはそれがないように思える。



けれど、今更何を言っても仕方ない。



私に出来ることは、祈ることと、待つことだけ。



「君も夜目が効かないことに変わりはないが。



死なないと、約束できるのかい」



「俺は、大丈夫。



……そんな顔しなくても、安定はきちんと帰還させるよ」



加州が少しだけ寂しそうな顔をした。



私は、そんなにわかりやすかっただろうか。



以前私は、加州に恋慕を伝えられたことがあった。



私は、安定が好きだからと断った。



きっと今も私は加州を傷つけたし、傷つけている。



それでも加州は、私に可愛がられるべく努力するのだ。



まるで、温かな泥に沈んでいくかのような、緩やかな危機感。



私はとっくに、審神者失格なのだ。



当日、私は楯兵を二つ安定に渡し、何度も意味なく問いかけた。



帰ってくるかと。



安定は、いつものように穏やかに笑って頷いた。



それでも、安定は帰って来なかった。



私はそれを、どこかでわかっていた気がする。



私と目を合わせることも出来ずに、安定の破壊を知らせる、ぼろぼろの加州が愛しかった。



それでも、私は加州より安定を愛している。



この手からすり抜けていった今でも、私なんか見てもいなかった安定を、愛している。



彼は、幸せになれただろうか。



私が彼を幸せにしてあげたかったけど、それは叶わないらしいから。



私は、彼が帰って来ないことを予感しつつ送り出した。



全く、私は審神者失格だ。

Fin.



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