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「雨、ですね………」



「そのようですね」



「その、申し訳ありません……連れ出してしまって」



「いいえ、私が無理を言ったのです」



私と太郎さんは、町のお店の軒先で、急に降りだした雨をしのいでいた。



資材を買い足しに行こうと準備をしていたら、太郎が荷物持ちをと申し出てくれたのでありがたく受けた結果、二人で雨宿りするはめになってしまっている。



「止みそうにありませんね」



雨足は強くなるばかりだ。



傘を買ってもいいけれど、無駄遣いを避けるために余分なお金はあまり持って来ていない。



買えて一本だろう。



太郎さんは大きい方だし、私と一本の傘を使うのは無理がありそうだ。



けれど、雨が上がるのを待ってはいられない。



太陽はほぼ沈んでしまっていた。



「太郎さん、このお金で傘を買って、先にお一人で帰っていただけますか?



荷物もありますし。



屋敷に帰ったら、誰か迎えを寄越してほしいです」



今日は重い資材を太郎さんに持たせてしまっているし、ここでのんびりもしていられないのだ。



迎えに来させてしまうのは申し訳ないが、荷物のない私はここで待てばいい。



「そういうわけにはいきません、主。



体が冷えてしまわれます」



「でも、お金はあまりありませんし。



二人で一本の傘を使うというのも、あの……狭くありませんか?」



「………わかりました。



しばしお待ちください、すぐに戻ります」



太郎さんはそう言い残して、雨の中を走って行った。



荷物持ちなんて、本当はさせたくない。



せっかく内番も出陣もない休みなのに。



太郎さんは主力メンバーだから、お休みは貴重だ。



次からは、もう少し出陣の少ない人についてきてもらおうかな、と反省した。



元々、太郎さんを断り切らなかったのは私の煩悩に過ぎないのだ。



私が、太郎さんと二人きりになりたかっただけ。



それが、こんなことになってしまうなんて。



暗い気持ちになって下を向いていると、水を跳ね上げる足音が聞こえた。



傘を買って帰ってきた太郎さんだった。



「さあ、帰りますよ主。



申し訳ありませんが、資材を持ってください」



「え、」



てっきり私が提案した通りにすると思っていた私は完全に不意を突かれ、太郎さんに抱き上げられていた。



「いやいや!



私重いですから!」



「そうでしょうか。



荷物、重くはありませんか」



「大丈夫です、けど」



私が荷物を持っていると言ったって、膝に乗せているだけだ。



若干不安定ではあるものの、重みはあまり感じない。



問題は太郎さんだろう、資材を持った私を片腕で抱き上げているのだから。



「これで、双方濡れずに帰れます」



「……太郎さん、私、待ってますから」



太郎さんが体も大きくて頼りになるということは、重々承知している。



どちらかと言えばまずいのは私の心拍数だ。



「いいえ、そういうわけにはいきません。



じっとしていてください」



言われて私は観念した。



私はどうやらどうしようもない愚か者だ。



こんな状況なのに、嬉しくて堪らないなんて。



「主、どうかこれからも、私をお誘いください。



私が主をお守り致します」



そんなことを言われたら、馬鹿な私は調子に乗ってしまうのに。



「……よろしく、お願いします」



「おや、主。



顔が、赤いようですが」



太郎さんのせいだ。



「気にしないでください……」



「風邪でしょうか」



そう言って額に手を当てる太郎さんは、一体どこまでわかっているのか。



でも、そんな太郎さんが、どうしようもなく好きだ。



「おや、雨が……」



「上がりましたね……」



急に晴れ間が見えてきた。



「あ、じゃあ私、降りますから………」



多分私の体重は資材よりある。



早く降りなければ悪い。



「いえ、せっかくですから、屋敷までこのまま………」



「えっ………」



悪いと思う自分と、嬉しいと思う自分が戦った。



私を見上げて微笑んだ太郎さんの笑顔で、悪いと思う私は秒殺された。



「………お言葉に、甘えます」



私の幸せは、いつもここにある。



太郎さんの、いるところに。



私は、この方が好きだ。



それだけで、雨さえも幸せに変わる。



そんな、虹の見える午後。

Fin.



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