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「俺と結婚してくれないか」



私に花なんか差し出しながら鶴丸国永がそう言ってみせるので、私は思わず硬直し、そうして次に笑ってしまった。



「俺が君に求婚するのが、そんなに可笑しいか?」



若干不機嫌そうな鶴丸には悪いが、これはお笑い草だ。



結婚、だなんて。



人間じゃあるまいし。



「随分人間じみたことを言うのね、平安生まれの御物様が」



茶化すように言えばいよいよ機嫌を損ねた彼が前言を撤回すると思ったのだけど。



「なぁ、冗談なんかじゃないんだ。



俺は君を愛している。



だからどうか、真面目に受け止めてくれ」



なんて真剣な顔で懇願するものだから、私は全くどうしたらいいかわからなくなる。



「大体結婚って、貴方はそれで一体私の何を縛りたいの」



今更関係性に名前をつけて、確かなものにしてみたって、結局それは気のせいで、私たちの関係は変わらず曖昧だというのに。



「貴方は神で、私は人だわ。



結ばれると思っているわけでもないでしょう」



「君が傍にいてくれるのなら、俺は罪も犯してみせる」



「神隠し、かしら」



馬鹿げたことを。



人の子なんかに執着して、罪を犯して美しいカミサマでいられなくなったら、貴方は一体どうするのだ。



「きっと貴方の気持ちは一時的なものよ。



取り返しのつかないことは、早々するものじゃないわ」



「俺は君が望むのなら、永遠の愛を誓う」



「いらないわよ」



そういうものを、一番信じていないのは私なのだから。



「じゃあ君は、どうしたら俺を受け入れてくれる」



「貴方が神じゃなくなって、永遠を誓おうにもたかだか百年足らずで死ぬ身の上になったら考えようかしら」



私は最早鶴丸を拒絶することで精一杯だった。



だって、永遠を信じていない私は、彼に美しい神のままであってほしい私は、彼を愛していたから。



だから苦し紛れに、絶対に無理と思われる条件を出したのだ。



なのに。



「なんだ、そんなことか。



簡単じゃないか、俺が人の子になったら君は俺を受け入れるんだな?



ならば誓おう、俺は死んだら人としてもう一度生まれ落ち、君を探し出すと」



鶴丸はこともなげに言った。



「………鶴丸」



「一つだけ聞かせてくれ。



審神者でない君は、俺を愛してくれているのか?」



最早嘘をつくことなどできない。



私は黙って頷いた。



「その返事だけで充分だ」



鶴丸は美しく笑った。



「その事実だけで俺は、この戦いを乗り越えられる。



君を探し出すことも、必ずできる」



鶴丸は、必ず、ともう一つつけ加えた。



蜂蜜色の瞳に、私だけが映っていた。



「何、君を待たせはしないさ。



君が一度死んで生まれ代わったら、俺もすぐに現世に降りる」



「あんまりにも年上なのは嫌だわ」



「ははは、そうだな」



嘘。



嘘よ。



貴方と何のしがらみもなく生きていけるのなら、他に重要なことなんて何もない。



同じ時間を過ごして、美しい貴方が年齢通りおじいさんになる様を見られたら、こんなに幸せなことはないわ。



「そうと決まったら、この戦いは早く終わらせよう。



今から君と過ごす日々が楽しみだ」



「……そうね」



「今から驚きをもたらす現世風のぷろぽーず?とやらを考えておかなくてはな」



鶴丸が楽しそうにしているときは、大抵良くないことが起こるのだけど。



「私の人生がそこで終了してしまわない程度にしてね」



いや、死んでもいいかもしれない。



間違いなくその瞬間が、次の私の生で一番幸せな瞬間だろう。



「当然だ、せっかく君を手に入れたなら、俺がみすみす君を死なせるわけがない。



命を賭して、君を守ろう」



「………ありがとう」



私は、刀剣男士目当てで審神者を志す女性を嫌悪していた。



同列にならないよう、自分を律し公平に接するという信念は変わっていない。



けれど、生まれ代わって出会い直せば、そんなことは関係なくなる。



私と彼は、必ずまた出会うだろう。



鶴丸も必ずと言っているし、私もただ待っているだけの女ではない。



永逝の日さえ、もう怖くはなかった。

Fin.



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