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01.君と離れられなくなった


中学3年生になった秋。
2年の時は、皆一緒のクラスだったのに、あたしは新一とも明日香や園子、蘭とも同じクラスになれなかった。
っていうより、見事にみんなクラスがバラバラになってしまったのだ。
一緒になったのは、新一と園子だけ。
先生たちの陰謀なんじゃないの?って言いたいくらいだけど、うちの学校はクラスが多いんだから、こうなってしまっても仕方ないと思う。


「あ、なまえちゃんだ。なまえちゃーん!こっちこっち!」

『みんな、遅くなってごめん!さっきの授業が長引いちゃってさ』

「あー、あんたのクラス、さっき世界史だったんだっけ?あの先生、いっつもくっだらない無駄話ばっかで、なっかなか授業進まないからイライラすんのよね」

『そうそう。今日も前半で話が脱線しちゃったから、後半で無理矢理授業進めちゃってさ、ノートとるのに時間かかっちゃったのよ』


さすが私立一貫校というべきか、既に授業内容は普通だったら高1で習うものになっている。
向こうにいた時、友だちから話には聞いていたけど、まさか、実際に自分が体験することになるとは思ってなかったからビックリだ。
まぁ、普通は中学からやり直しなんか体験しないんだから当たり前だけどね。

今はまだ大丈夫だけど、あたしの苦手な複素数やベクトルとかになれば、授業についていけなくなるのは目に見えてるから、家ではこっそりと参考書と戦っていたりする。


「でも、クラスがバラバラだと一緒にご飯食べるのも大変だよね。まさか、こんなにバラバラになるとは思ってなかったしさ」

『だよねー。春は今みたいに屋上集合だったから良かったけど、夏なんか誰のクラスで食べるかメールしなくちゃいけないくらいだったし』


蘭の言葉にしみじみと同意しながら、お弁当を開いた。
蘭と園子、あたしと明日香の4人はクラスがバラけて離れてしまった今でも仲良し4人組で、お弁当はいつも一緒に食べてる。
放課後や休日に一緒に遊びに行ったりしてるのは言うまでもない。


「うわぁー!なまえちゃんのお弁当、今日もすっごく美味しそう!」

『そう?何なら明日香のお弁当と交換する?』

「いいの!?」

「あんたって、新一くんのお弁当作るようになってから、やけに手の込んだの作るようになったわよね?」


明日香とお弁当を交換してると、園子が絡んで来た。
このやり取り、先生たちがアメリカに行ってから何回目かも分からないくらいによく言われる。


『だって、あたし一人なら手抜きでもいいけど、新一はサッカーしてるんだから栄養バランスとかも考えなきゃいけないじゃない。成長期なんだしさ』

「それにしたって、1年の時から毎日よ?よく続くわね。あたしには絶対無理だわ」

「なまえって絶対いいお母さんになるよね!やっぱり新一なんか考え直したら?あんな推理オタクに、なまえは勿体無いわよ!」

『あー…それね』

「何よ?何かあったの?普段なら、ここで新一くんが自分には勿体無いんだって照れるクセに」


蘭の言葉に苦笑したら、園子に不思議そうに聞かれた。
最近の新一の様子を思い出すと、上手く笑えないんだから仕方ない。


『新一ってさ、もうあたしのこと好きじゃないのかなぁーって思ってさ』

「はぁ?何言ってんのよ!毎日なまえのお弁当が食べれるお昼になるの楽しみにしてるわよ?他の男子がつまみ食いしようとしても、誰がやるかって拒否してるの、あんただって1年の時から見てたでしょ?」

『それは覚えてるけどさぁ。新一、なーんかあたしのこと避けてるんだよね』

「あのなまえ一番な新一が!?」

『夏にみんなで海に行ったじゃない?あの後くらいからかなぁ。初めはあたしの勘違いかとも思ったんだけど、最近それが酷くなってさ。もうあたしのことご飯作ったり、家の掃除してくれる便利な家政婦くらいにしか思われてないんじゃないかなって…』


園子も蘭もビックリしてるけど、ホントなんだよね。
前は暇さえあればよく抱きしめてくれてたのに、最近は全然だし、もちろんキスなんてしばらくしてない。
まぁ、元々キスは新一が照れちゃうからあんまりしてなかったんだけど、付き合い始めた頃からよくされてた頬キスまでされてない。
これで今でもあたしのことを好きだと思えと言われても信じられない。


「あんたの考え過ぎじゃない?なまえ、今でも週末は新一くん家で過ごしてるんでしょう?」

『そうなんだけど…でも、基本的に新一は部活でいないし、帰って来ても、ご飯の時以外は部屋に籠って出て来ないから、会話もあんまりしてないし…』


前はご飯の後は新一が珈琲淹れてくれてお喋りしてたし、お風呂上がりもどっちかの部屋で一緒にゆっくりしてたのにってため息混じりに続けると3人とも不安そうな顔をしてるのが見えたけど、今まで一人で溜め込んで来たものを吐き出してしまったから言葉が止まらなかった。


『だから、新一、もうキモチ冷めちゃったのかなって。新一に捨てられちゃうなら、あたし高校は…』

「ダメだよ!あたし、なまえちゃんと一緒の高校がいいもん!またアメリカに行くとかって話なら、そんなのあたし絶対反対だからね!?」

『明日香…』


あたしに抱きついて話を遮った明日香を優しく抱き返す。
アメリカ行き、ちょっと真剣に考えてたんだけどな。


「なまえ、私が新一に何があったのか話聞いて来てあげる!」

『え?』

「そうそう。また1年の時みたいにアメリカ行くとかなまえが言い出す前に、あたしたちが新一くんにどういうことなのか聞き出してあげるから、バカなこと考えないでよね?」

『うん…』


でも、それでホントにキモチが冷めちゃったとか言われたらどうしよう…。
あたしは新一にフラれても今まで通りに新一の傍に居れる程、強くない。
ましてや、新一が新しい彼女とか作っちゃったら、それを近くで見てるなんて絶対耐えられない。

そんなことを考えながらも、帰りにスーパーに寄って、新一の家でいつもみたいにご飯作らなきゃって思っていたら、通り過ぎようとしてた教室から新一の声が聞こえて思わず立ち止まってしまった。


「だから、なまえにも家に泊まったりとかして欲しくねぇんだけどよ、そんなこと言えねぇじゃねーか」

「そうだよなぁ。みょうじさん、あれだけ工藤の為に尽くしてくれてんだし、」


今、新一、何て言った?
新一の言葉が頭の中で反響する。
既に溢れ出した涙を止める術を知らなかったあたしは、その場から走って逃げ出した。



(やっぱり、新一にはあたしのキモチなんてもう迷惑でしかなかったんだ)



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