×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


01


今日もいつもの様に河原に歌いに来た、のはいいんだけど。


「なまえー!」


今日もいつものようにワンコも来た…。
何で連絡もしてないのに、毎回毎回ワンコはあたしが歌いに来ると出没するんだ。
ワンコが住んでる江古田ってこの前調べたけど、結構遠いはずなんだけど?


『またリクエスト?』
「いや、今日はなまえをデートに誘いに来たんだよ!」
『はぁ?』


またこのワンコは意味の分からないことを言い出したな。
何であたしがワンコとデートしなくちゃいけないんだ。
リクエストもないみたいだし、もう今日は歌わずに帰ろうかな。


「俺の右手見ててくれよ?1.2.3!」


相変わらずどうやったのかは分からないけど、何も持っていなかったはずのワンコの手には2枚のチケットが握られていた。


「じゃーん!トロピカルランドのチケット!!」
『トロピカルランド!?』


トロピカルランドってあれよね?
コナンでよく出てくる、あのお城がある遊園地よね!?
瞳の中の〜の映画にも出てきたあそこよね!?


「なぁ、今度の日曜に一緒に行かねぇか?」
『いいの!?』


嘘っ!?マジで!?
あのトロピカルランドに行けるの!?
行きたい!!


「っし!じゃあ決まりだな!朝なまえん家に迎えに行くから、デートしようぜ?」
『うん!楽しみにしてるね!』


夢みたい!
まさかあたしがあのトロピカルランドに行けるなんて!
名目がワンコとデートっていうのが気になるところだけど、そんな細かいこと気にしちゃいけない。
あのいろんなエリアがあるトロピカルランド、一回行って見たかったんだもの!



せっかく夢にまでみたトロピカルランドに行けるんだからって、昨日は何を着て行こうかと有希子セレクトの洋服を片っ端から引っ張り出して洋服選びに夢中になった。
そして今は化粧台の前で歌を口ずさみながら、髪をいじってる。
え?彼氏とのデートってわけでもないのに気合い入れすぎだって?
そんなのトロピカルランドに行くっていうだけで、お洒落しなくちゃ失礼ってもんでしょ!


♪〜♪〜


『はーい。もしもし?』
「おー。今日のなまえ、何かご機嫌だな。下まで来たぜ?」
『分かった。すぐ降りるわ』


動き易い様にスニーカーを履いて、準備はOK!
今日は片っ端から乗り物制覇するんだから!


『お待たせ』
「…」
『黒羽くん?』
「今日のなまえ、めちゃめちゃ可愛い!!」
『ホントに?ありがとう。今日すっごく楽しみにしてたから』


にっこりと満面の笑みを向けると、何故かワンコは顔を逸らしてしまった。
何か、顔が赤い気がするけど気のせいか?


『ねぇ、早く行こう?』
「お、おう」


やっぱり今日のワンコはどこかオカシイ。
もしかして、調子悪かったりするのかな?


『何か今日の黒羽くん、いつもと様子が違うけど、もしかして調子悪かったりする?』
「え?」
『何か変だよ?』


一緒に駅へ向かいながら、気になっていたことを訊ねるとワンコは目を丸くして驚いていた。
あれ?調子が悪かったんじゃないの?


「んなことねーって!元気元気!なまえがこんなにお洒落した格好初めて見たから、ちょっとビックリしただけだからよ」
『そう?調子悪いんなら無理に付き合わせるの悪いかなぁって思ってたんだけど…』
「ホントに大丈夫だって!」
『それなら良かった。あたし、トロピカルランド行くの初めてだからワクワクしてるの!』
「じゃあ今日は花火が上がるまで乗り物乗りまくるか?」
『花火?』


そういえばスケートの事件の時に花火が上がってたな。
あれって毎日してるのかしら?


「おう!7時に花火があんだよ。空から見たらキレイだぜ?」
『空から?』
「あそこ、でっけー観覧車があっから、そっから見たら園内一望出来てずっげーキレイなんだよ」
『じゃあ、最後はそれで決まりね!』


遊園地に着くまで、ワンコはどんなアトラクションがオススメだとか、今年こんなのが新しく出来たんだとか色々説明してくれてあたしの期待は高鳴る一方だった。
けど、それにしても、ワンコ詳し過ぎない?


『もしかして、黒羽くん、今日の為に調べて来てくれたの?』
「えっ?あ、いや、その…なまえはどんなのが好きかなって思って、よ」


照れたのか、下調べしたのがバレたのが恥ずかしいのか、ずっとあたしを見て話してたワンコがちょっと頬を染めて視線をずらした。
どうやら、ポーカーフェイスはドコカに忘れて来たらしい。
何か今日のワンコ可愛いな。


『わざわざありがとう。遊園地着いてからも案内よろしくね?』
「任せとけって!」


そう笑ったワンコはいつも通りな無邪気で人懐っこい満面の笑みをしていた。
うん、これでこそあたしの知ってるワンコだ。


「ほら、行くぜ!まずはなまえが好きだっつってた絶叫系制覇しなくちゃな!」


トロピカルランドに着いた途端、わぁー本物だぁ!ってお城を見上げて一人でこっそりと興奮してたら、ワンコに手を繋がれて、二人で最初のアトラクションの場所まで走って行った。
どうやら、観覧車が最後になるように巡る順番をきちんと考えてくれてるらしい。
そこからは時間が過ぎるのも忘れて久しぶりの遊園地を満喫した。
遊園地に来るなんて何年ぶりだろ?
しかもそれがあのトロピカルランドなんて!
新一と蘭の思い出の噴水には連れて行って貰えなかったけど、あたしは一日中ずっとハイテンションだった。


『今日はホントにありがとね。すっごく楽しかったわ』


約束通り、花火の始まる時間に間に合うように乗った最後の観覧車の中でワンコにお礼を言った。
あたしがこんなにはしゃぐのってホントに珍しいと思う。


「俺も今日はすっげー楽しかった!なまえがずっと楽しそうに笑ってたから余計な」
『え?』
「俺、なまえがこんなに嬉しそうにはしゃいでくれるなんて思ってなかったから、なんかすっげー嬉しかった!」


なんか、ワンコの無邪気な笑みが初めて会った日みたいな笑顔でちょっと恥ずかしかった。
あたし、はしゃぎ過ぎたかな?


「ほら、もうすぐ花火始まるぜ?…3、2、1」
『わぁー…キレイ…』


ワンコのカウントダウンと共に3連発の花火が始まった。
観覧車はもうすぐ頂上ってところだから、花火が何だか近くに感じる。
花火って見上げるのが当たり前だって思ってたから、こんな風に見る花火は初めてで、何だかとても新鮮だった。


「俺はなまえの方がキレイだと思うけどな」
『え?何か言った?』
「何も言ってねーって」


観覧車が頂上を越えて、だんだんと下がって行くに従って、今日の夢みたいだった時間も終わるんだって、何だかちょっぴり切なくなった。





【夢見た場所で】

とても楽しい思い出が出来ました。


「んな顔すんなよ。また連れて来てやっからさ!」
『うん…』
「俺がなまえにいろんなもん見せてやるって!」
『え?』
「なまえが今日みてぇに笑顔になれるような場所、いっぱい連れてってやるよ!」

何だか今日のワンコはあたしの家に送ってくれた最後の最後までご機嫌だった。

でも、そういうのは彼女に言った方がいいんじゃない?
なんて不思議に思ったけど、ワンコなりの気遣いなんだろうって思うことにした。



→あとがき

prev next