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「#エロ」のBL小説を読む
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- ナノ -


01


「昨日、キッドは予告通り…」
『キッド様、カッコイイーっ!!』


あたしの名前はみょうじ なまえ。
キッド様に憧れる16歳。
神出鬼没で大胆不敵。予告を出せば、どんなに厳重な警備もなんのその。華麗にそれをいただいちゃうキッド様ってカッコイイ!
今もキッド様の特集をテレビで見てるんだけど、何でもっとアップでキッド様を映してくれないんだろ?
遠くで白いマントが翻ってるのは見えるけど、これじゃキッド様の顔が見えないじゃないっ!!


「なまえ、また怪盗キッドの特集見てるの?もうご飯出来たわよ?」
『えー。もう少しキッド様見てたいのにぃー』
「どうせ録画してるんでしょ?後で見ればいいじゃない。お父さんも待ってるんだから、早く来なさい」
『はぁーい』


あたしの家は、お父さんとお母さんの3人家族な極々普通な家で、今日もいつもと同じ普通の日常がいつも通りに終わるハズだったんだ。
それなのに、何よ、これっ!?


「なまえ!貴女だけでも逃げなさいっ!」
『あ…あ…』
「なまえっ!何してるんだ!お前だけでも早く!…ぐっ…」
『お父さんっ!!』
「なまえ!早く貴女だけでも!キャーっ!!」
『お母さんっ!!』
「後はお前だけだな」
『あ…あ…イヤぁーっ!!』


床に倒れたお父さんとお母さんは、フローリングの床を真っ赤に染めて動かなくなった。
あたしは黒い服を着た人から一生懸命に逃げたけど、逃げる時に太ももを撃たれたせいで痛くて上手く走れない。

何で…何で…何で!?

さっきからそれしか頭に浮かばない。
あたしの家は普通な家だったはずなのに…今日もいつも通りにみんなでご飯を食べて、あたしの学校でのくだらない話をしてはお父さんもお母さんも笑ってたはずなのに…!!
いきなり家に入って来た黒い服を着た人のせいで、全部が壊れてしまった。
お父さんとお母さんが動かなくなって…救急車を呼んだら、助かったのかな?
あんなにたくさんの血が出てたのに?


『きゃあっ!』


足が縺れて豪快に転けてしまった。
早く逃げないとあいつに追い付かれちゃうっ!!


「鬼ごっこは終りだ。お嬢ちゃん。怖くはないさ。直ぐにお父さんとお母さんに会えるからね」


銃を構えた黒い服の男の人に、もうダメだって目を瞑ったのに、身体がふわりと浮いて、銃声は下の方で鳴っていた。

何?どうなってるの?


「なまえ嬢、大丈夫ですか?」
『え?』


優しい声が聞こえてゆっくりと瞳を開けると、あたしの憧れの人がすぐ目の前に居た。


『き、キッド様!?』
「危ないところでしたね。安全なところまで私がお送りしましょう」


あたしは今、所謂お姫様抱っこをされて、キッド様と一緒に空を飛んでいた。
もうダメだと思ったのに、あんな状況で助けてくれるなんてヒーローみたい!


『あ…でも、家は…お父さんもお母さんもあいつに…っく』


そうだ。今はこの状況を喜んでる場合じゃない。
お父さんもお母さんもあいつに殺されたんだ。
もうあの普通の暖かい時間は戻って来ないんだ…。


「なまえ嬢、警察までお送りしますのでご安心を。きっとなまえ嬢の力になってくれますよ」
『ダメ!そんなことしたらキッド様が捕まっちゃう!!』
「大丈夫ですよ。私は怪盗キッド。誰にでも変装することが出来ますから。足が痛むかもしれませんが、少しだけ我慢して下さい」


警視庁のすぐ近くで一度キッド様の腕から下りたけど、次の瞬間にはキッド様はあたしでも知ってる有名人になっていた。


『工藤…新一…?』
「この姿なら、直接警部たちと話が出来るからな」


そう言って、キッド様はまたあたしをお姫様抱っこして警視庁の中に堂々と入って行った。
キッド様はあたしの代わりに刑事さんたちに事情を説明してくれて、あたしが撃たれた足を手当てして貰った頃にはいなくなってしまっていた。
あんな状況から助けてもらったのに、キッド様にお礼も言えなかった。



夜道を歩きながら、あたしは一年前のあの日のことを思い出していた。
キッド様が犯人の顔を警察の人に詳しく伝えてくれたおかけで、あの後、お父さんとお母さんを殺した犯人も無事に捕まって、あたしは近くに住んで居た伯母さんの家に引き取られた。
あの日、キッド様への想いが憧れから恋心へ変わったんだよなぁーって思いながら歩いていると、通り過ぎようとした公園にキッド様がいるのを見つけた。


『キッド様!』
「なまえ嬢、お久しぶりですね」

キッド様はあたしを確認しても逃げたりなんてしなかった。
それどころか、あたしに向かって優しく笑ってくれた。

それだけのことが、スゴく嬉しかった。


『キッド様、あの時はお礼も言えずにすみませんでした。助けて下さってありがとうございました!』
「もう足は大丈夫なのですか?」
『はい。傷痕は残っちゃいましたけど…』


それさえも、キッド様との思い出と一緒に思い出せば愛しく感じるんだから不思議だ。


『キッド様、あたし、あの時からキッド様のこ…』
「なまえ嬢、その先は私に言わせていただけませんか?」
『え?』


キッド様に会えることなんて、もうないかもしれない。
そう思ったから、告白しようと思ったのに、キッド様の白い手袋をはめた人差し指があたしの唇に当てられた。
それだけで、あたしの心臓はドキドキと煩い。
例え指先だけだろうと、キッド様があたしに触れてくれた。
それが嬉しかったんだ。


「人を助けるのに理由なんて要らないのかもしれませんが、私は貴女を助ける理由があったんです」
『え…?』
「好きな女性が危険な目に遇っていたら、助けたいと思うのは当然じゃないですか?」
『キ、ッド様…今、何て…』
「なまえ嬢、私は貴女のことを愛しています」
『キッド様…あたしもキッド様のことが大好きなんです』


あの日、ほんの少し一緒に居ただけ。
それだけなのに、好きになってしまった。
自分のキモチに嘘はつけない。

あたしの腰にキッド様の手が回されて、キッド様に近づいた身体。
キッド様に抱き締められているんだと思うとドキドキが止まらない。
もう片方のキッド様の手があたしの顎に当てられて、そのまま上を向くとキッド様の優しい瞳がすぐ近くにあってあたしは瞳を閉じた。




【傷痕が結んだ恋】

重なった唇から身体中に幸せが広がってるって、あたしはホントに思ってたんだ。



→あとがき



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