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01


あたしは月が大好きだった。
だって、月の綺麗な夜は大好きな貴方が逢いに来てくれるから。


「今晩は、なまえ嬢」
『今晩は。今日も逢いに来てくれたのね』


貴方がいつ来ても入って来られる様に、いつも開けているベランダの窓が開けば、真っ白なスーツを着た貴方が入って来てくれる。
鍵なんて、貴方には関係ないことは知ってるけど、それでもあたしは鍵を開けていた。
少しでも早く貴方に会いたいから。


「なまえ嬢、今日はお別れを言いに来たのです」
『え…?』


いつもの様に貴方に抱きつけば、貴方はいつもの様に優しく抱き締めてくれたけれど、貴方が言った言葉はあたしにとって予想外な言葉だった。


『あた、しのこと、嫌いになった…っていうこ、と…?』
「なまえ嬢のことは今でも愛していますよ。ただ、もう会いに来ることは出来ないのです」


意味が分からなかった。
あたしのこと愛してるなら、お別れなんて言わないで。

あたしは貴方との約束を守ってる。
会いたい、なんて言ったことなんてない。
次はいつ来るの?なんて聞いたこともない。
貴方が逢い来てくれるのをただ待っていただけで…


「なまえ嬢、お元気で」
『…』


貴方はあたしに、いつもより優しいお別れのキスをして夜の闇へと消えてしまった。
あたしの頬伝って、涙がポタリポタリと落ちている。
あたしのことを愛してるなら、どうして終わりなの?
何も言えないままに、全てが終わってしまった。
それだけがあたしの頭を支配して、あたしは立ち尽くしたまま動けなかった。
ただ、あたしの頬を流れ落ちる涙だけが止まってくれない。


あれから数ヶ月…
キッドは新聞にさえ姿を現してはくれなかった。
ホントにいなくなっちゃったんだ…。


もう一度、貴方に会いたい…

何度そう願っても、もう夜にベランダの窓が開くことはなかった。

もう一度、声が聞きたい

何度そう思っても、貴方があたしの名前を呼んでくれることはない。


あの時、あたしが別れたくないと言えてたら、今でも貴方はあたしを抱き締めてくれてたの?

貴方に会いたくて会いたくて、あの日から明日なんてなくなった。
苦しくて苦しくて、心が崩れていくのが分かった。
貴方がいない未来なんて、今すぐにでも壊してしまいたかった。
貴方とあたしの間には消えない愛があると信じていたのに…何で終わりなの?

もしも願いが叶うなら、時間を戻して欲しかった。
貴方が居た時間に。
貴方に抱き締めてもらえてた時間に。
あたしの名前を呼んで愛を囁いてくれていたあの時間に。

寂しくて寂しくて、どんなに泣き叫んでも涙は枯れてくれなかった。

一言でいい。
貴方の声が聞きたかった。
少しでもいい。
貴方に会いたかった。
もう一度だけでいいから、抱き締めて欲しかった。


ずっと部屋に引きこもっていたけれど、そうしていても何も変わらないって、久しぶりに外に出てみることにしたんだけど。
河川敷を散歩してみても、気分転換になるどころか、また涙が溢れて来て、ベンチに座ってあたしはただただ泣いていた。


『ねぇ、やっぱり会いたいよ…』


貴方に抱き締めてもらえないと、涙が止まってくれないの。


「お姉さん、大丈夫?」
『え?』


すぐ近くで声がして、顔を上げると学ラン姿の男の子がいた。
高校生…かな?


「ずっと泣いてるお姉さんに、元気が出る俺のマジック見せてやるよ」
『え?』
「It's showtime!」


どこから出したのか、シルクハットを被ると、その男の子はいろんなマジックを見せてくれた。
だけど、シルクハットもマジックもあの人を思い出すだけで、涙は止まるどころか次から次に溢れて来た。
思い出だけで生きられるなら、あたしは貴方との思い出だけで生きていくのに、貴方がいないとあたしは生きていけないみたいだよ…。


「んな顔すんなよ。これからは俺がずっと傍に居てやっからさ」
『何…言って、』
「なまえ嬢、貴女を悲しませてしまった私を貴女は許して下さいますか?」
『!』


あたしを抱き締めてくれた男の子は、あたしの耳元で確かにそう言った。
あたしが何度聞きたいと願ったか分からないあの人の声で。


『もう、あたしを一人にしない…?』
「当たり前だろ?今でも愛してるって言ったの忘れちまったのか?」
『ずっと貴方を待ってたの!』


あたしが貴方に抱きつけば、貴方はまた前みたいにあたしを優しく抱き締めてくれた。




【姿が変わっても】

貴方へのキモチは変わらない。

「すぐにでも会いたかったのに、オメーがずっと引きこもってたから、会うのにこんなに時間かかっちまったじゃねーか」
『貴方に会えないのが寂しくて悲しくて、涙が止まってくれなかったから、それどころじゃなかったのよ』
「なまえに新しい彼氏でも出来てたらどうしようかと思ってたぜ」
『あたしは貴方だけを想ってるって言ったの忘れたの?』
「俺もずっとなまえのことだけを想ってたぜ?」


貴方はあたしと視線を交わすと、あの時より優しいキスをしてくれた。
新しい貴方と刻む、これからの二人の時間を始める再会のキスを。



→懺悔室(あとがき)

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