―ピンポーン―

突然チャイムが鳴った。
時刻は午前0時をまわったところ。
そろそろ寝ようかとお気に入りのアロマの香りを部屋に漂わせ始めた時に、不意に訪問者を告げる音。些か驚く。

「…誰よ、こんな時間に。」

今日は生憎の雨。
雨の日には珍しく風が涼しかったからベランダの窓を開けていた。
久しぶりにクーラーが必要なさそうな夜ね。
そんなことを考えながら謎の訪問者の対応をするべく、インターフォンに備え付けられているカメラの映像を見る。

「あれ…？」

誰も映っていない。何事かしら？
もう一度、今度は玄関の扉を開けてみることにした。
深呼吸して扉を勢いよく開けると

「やっぱり誰もいない。」

何なのよ、一体。

「もう、こんな時間に悪戯？全く誰か部屋間違ったのかしら…」

１人で不満をぶつぶつと呟きながら玄関の扉を閉めて部屋に戻ると、カーテンがヒラヒラと漂っていることに気づいた。

さっきから、こんなに風強かったっけ？
もう窓閉めちゃおうかな…。

そのまま窓に近づくと見慣れないものに気づいた。
１輪の白い薔薇。
それはまるでそこにあるのが当然だというようにカーテンの横のラックの上に置かれていた。

「何これ…？さっきまでなかったよね…。あたし、買った覚えないんだけど…」

部屋に１人なのも忘れて誰かに問いかけていた。１人なんだから勿論誰からも返事はないはず。

なのに…

「それは俺からのプレゼントですよ」

…！？
今、ベランダから声が…

あたしが確かめるより先にその人が姿を現した。
全身を白のスーツで身に纏い、白いマントにシルクハット。
傍らには純白の羽を持つ鳩。

「！…怪盗キッド！？」
「御名答。女性の部屋に無断押し掛けるという不粋な真似をお許しください。」
「どうして…」

驚きすぎて言葉が続かない。
世間を騒がせている怪盗が何で？とか、そもそもどうしてあたしのコトを知ってるのか？とか色んな疑問が頭の中でぐるぐるしていた。

「先日書いていただいた“願い事”を叶えに参りました。」

そう言って柔らかく笑う彼。
願い事…？そういえば…
この間初めて行った雑貨店で七夕フェアをやってたっけ。
『短冊を書いて笹の葉に飾ってみませんか？』
ってやたらとしつこい店員さんが勧めてきたような。
結局根負けして書いてきたんだっけ…。

「でも、あれは…」
「ええ。貴女の願い事は“織姫と彦星が会えますように”でした。」
「だから今日は」
「生憎の天気でしょう？
ですから会いに来たんですよ。彦星が織姫に、ね。」

そう言うとラックに置かれていた白い薔薇を手に取り、軽く宙に舞わせた。
その瞬間、薔薇は消え去り、彼の手の上にはリボンで包まれた掌サイズの箱が。

それをあたしに向けて言う。

「これは彦星から織姫へのプレゼントです。」

吸い寄せられるように彼に近づくと、その箱を受け取っていた。
そのままリボンを解いて箱を開けると、中には薄いピンク色の石のブレスレット。

「…綺麗。」

言葉では表現出来ない可愛さや綺麗さに思わず笑みが零れていたあたしを見て、彼は嬉しそうに笑ってくれた。

「気に入っていただけて何よりです。でもそれだけではないんですよ。」

…どういうこと？咄嗟に言葉がでなかったけど、きっと表情に出てたんだろう。

「それを見ていてくださいね。」

彼がパチンと指を鳴らすと、照明は消え去りブレスレットが光に照らされる。

「…星!?」
「ええ、星形に見えるでしょう？それがその石の特徴なんです。
光を当てることによって、石のなかに星の光があらわれる。
彦星が織姫に星をプレゼントするなんてロマンチックだと思いませんか？」

言われていることは凄くキザな台詞の筈なのに、彼が言うと全く違和感がない。
寧ろぴったりはまっている気がするのが不思議。

「改めて…気に入っていただけましたか？」
「ええ…！勿論です。」
「それは良かった。どうしても今日お渡ししたかったんです。
織姫である、貴女の誕生日に。
お誕生日おめでとうございます。」

どうして、それを…
聞こうとしたところで彼に遮られた。

「おっと…少し長居をし過ぎました。そろそろ時間のようです。」

遠くから警察のパトカーのサイレンの音が近づいてくる。【こらー！キッドー！】なんてマイクで叫んでいる刑事さんが居る気がするけど気のせい…よね。

申し訳ありませんと彼は恭しくお辞儀をするとあたしの手を取り、口づけを一つ落とした。

「また、会えますか…？」

この時間が終わるのが寂しくて、でも混乱した頭では上手く言葉も出なかったから、そう聞くのが精一杯。

「ええ、勿論。七夕だけでなく、一年中織姫が望むなら何時でも私は現れますよ。
彦星である私は天の川を消して貴女の元に何度でも。
但し、夜限定ですけどね。」

そう言って笑うとウインクを一つ残し、彼はマントを翻してベランダから飛び立っていった。
傍らの鳩が同時に飛び立ち、部屋に残るのは純白の羽。

「夢、じゃないよね…。」

掌に乗る小さな幸せの重み。このブレスレットが彼がさっきまでいたことを示している。
輝くブレスレットを眺めると、寂しさよりも次はいつ彼に会えるのか楽しみになってきた。

「今度はもっと話さなくっちゃ！あの怪盗キッドだもんね。」

興奮しすぎ？自分の中で解決したところで、一気に眠気が…。

この幸せな感情のまま眠りたくてブレスレットをつけて、幸せの塊を握ったままベッドに潜り込んだ。

何だか今夜は素敵な夢を見られそう。

☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒

2011年7月7日

.+*Happybirthday*+.

☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒

話中のプレゼント◎
スターローズクォーツ
→7月7日の誕生石と言われている天然石。
光に当てると星形があらわれるのが特徴的な天然石。

→感想