せっかくの休日。
今日は園子とショッピングするんだー!って、意気込んでたんだけど…
朝起きてみればぼんやりする視界。
あれ、なんか…頭重い?
…痛っ。
突然意識がはっきりしたかと思えば、ずきずきと痛む喉。
声を出してみれば掠れた声しか出ない。
何だかふらふらする体で体温計を探してみれば、案の定38℃近く。
声が出ないから園子にはメールで連絡と謝罪。
ショッピングは断ったけど、すぐさま返事が来
た。
『1人で大丈夫なの!?お見舞い、行こうか?』
園子らしくて思わず笑みがこぼれる。
『大丈夫大丈夫☆園子にうつすといけないから今日はゆっくり寝ることにするね』
返信を送って携帯を閉じる。
またふらふら増してきたかな?
急いで市販の薬を流し込んで、またベッドに逆戻り。
もうなんでこんな時に限って…
というのも、今日お父さんは地元の集まりという名の麻雀大会。
コナン君に関しては昨日からまた博士たちとお出かけ。
つまり今日は完全に1人で何とかしなくちゃいけない。
思わず溜め息が零れたけれど、ぼんやりする頭は薬のお陰で眠気に誘われていった。
〜〜〜〜〜〜
《喉、痛いんだろ?これやるよ》
【なにこれ?まほうのくすり?ってレモンキャンディーじゃない!】
《バッカ。そう見えるだけでちゃんと書いてあるだろ。まほうのくすりって。》
【はいはい、手書きだけどね。気持ちだけ有り難くもらっておくわ】
〜〜〜〜〜〜
‐コンッコンッコンッコンッ‐
不思議な音がして目が覚めると、朝よりはずっと気分が楽になっていた。
外をみれば薄暗くて、随分長く眠っていたことに驚く。
…まほうのくすり、か。
レモンキャンディー、無かったかな。
誰に呟く訳でもなく思わず出た言葉。
…あれ?そういえばさっきの音って一体?
恐る恐る音のした窓に近づいて、思いきってガラリと硝子戸を開けば外には
…し、新一!?
白い鳩と戯れる新一が確かに居た。
「おめーがまた風邪でも引いてんじゃないかと思ってな」
…ちょっと、どういうことよ!
思いっきり叫びたい…けど声が出ない。
「気持ち良さそうに眠ってたから、配達させてもらったよ」
…どういう意味?
余程不思議そうな顔をしてたんだろう、新一は笑いを堪えて説明してくれた。
「玄関のポスト。あとでいいから見てみろよ」
…ちょ、ちょっと待ちなさいよ!まだ言いたいことがたくさんあるんだから!
適当な上着を羽織って玄関に向かうと、開けっぱなしの窓からはパチンっと指を鳴らす音。
大急ぎで階段を降りたけれどそこにもう新一は居なくて、鳩の羽だけが宙を舞っていた。
…アイツ、もう行っちゃったの?次はいつ会えるのよ…
泣きそうになるのを堪えてポストを開くとそこにはレモン味のキャンディーの袋。
「俺からの薬だ、早く寝ろ」なんてカード付きで詰め込まれてた。
それを持って部屋に帰って、キャンディーを一つ、口のなかに放り込む。コロコロと口内を転がせば甘酸っぱい、心地好い味が広がる。
…見てなさいよ。次は絶対逃がさないんだから!!
そう思いながらも頬は自然と緩んでいて、喉の痛みすらどこかに消えた気がした。
でも…今回は素直にありがとう、かな。
口内をコロコロと転がすと飴玉のレモン味が広がるだけ。
でもそれはどこか幸せな甘酸っぱさ。
それを感じては、園子に何て話そうかって考えながら携帯を開いてメールの作成を始めていた。
――――――――――
「今回の事で貸し借りはなしだからな、ボウズ」
白いマントに身を包んだシルクハットの怪盗は、夜空を駆け抜けながら、誰に聞こえるわけでもない独り言を呟いていた。
傍らには白い鳩が寄り添っていた。
→感想
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