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譲れないモノ


蘭の言葉は、俺の冷静沈着を崩すには十分な一言だった。


「ねぇねぇ、なまえ。あれから彼氏とどうなったの?」


なまえに彼氏?
俺が居ない間に何があったってんだよ。


「へぇ。じゃあ付き合い出してからずっと送り迎えしてくれてるんだ?いいなー。え?明日デートなの!?」


なまえがデート……。
何とかして邪魔出来ないかと蘭の電話越しの会話を拾いつつ、俺は偶然を装って突撃することにした。


「なまえお姉ちゃん!」
『あら?コナン君じゃない!どうしたの?』
「あのね、僕友だちの家に行こうとしたんだけど迷子になっちゃって……」


スカートをぎゅうって握って来るコナン君が可愛くて仕方なくて、あたしは思わずコナン君を抱き上げた。


『お友だちの家はこの近くなの?』
「ううん。分かんない」


なまえお姉ちゃん、と甘えるように抱きついてくるコナン君はホントに可愛いと思う。


「そのちびっこ誰?」
『あ、ごめん。快斗と一緒に居たの忘れてた』
「ひでぇー!!」


ここでコナンがなまえには見えないように快斗に向かってこっそりザマーミロって顔してたのは二人だけの秘密である。


『ごめん、ごめん。快斗、この子はあたしの友だちの家で預かってるコナン君』
「(知ってるよ。キッドの姿では何度も会ってるからな)」
『で、コナン君。こっちがあたしのか、彼氏の快斗…』
「なまえったら、照れちまって可っ愛いー!!ってぇ!!!」


快斗がなまえに抱きつこうとしたのを、腕が伸びてきた途端にコナンがつねったのだが、やっぱりなまえは気付いていないようである。


『快斗どうしたの?何か変だよ?』
「別に何でもねーよ。なぁ、坊主?」
「そうだよ。僕何もしてないもん」


なまえに対してはにこにこと小学生らしい笑顔を向け、快斗とは密かに火花を散らしながら睨みあいをしていたコナン君。


『でも、コナン君迷子になっちゃったから大変だよね。お姉ちゃんがコナン君のお家まで送ってあげようか?』
「ホントに?!やったー!!」
「ちょ、ちょっと待てよ!これからデートに行く約束は!?」
『何よ、快斗。小学生が困ってるのに放って置けって言うの?』


「なまえお姉ちゃん、あのお兄ちゃん怖い…」


ぎゅっとなまえの胸の辺りの制服を掴むコナンを見て、テメー絶対わざとだろ!
と、言いたいところだが、此処で言ってしまったら、名探偵には正体がバレてしまうわ、なまえにも危険が及ぶかもしれないわで、ひたすらに我慢することにした。


『それじゃあ行こうか。コナン君』
「うん!」


チラッとこちらを見たコナンの表情は勝ち誇ったような顔をしていて、握っていた拳に更に力が入った。


『でも、コナン君が迷子になるなんて珍しいね』
「そ、そうかなぁ?大丈夫だと思ったんだけど、気がついたら全然知らない道でビックリしちゃった!」
「(絶対このガキ待ち伏せしてただろ)」


快斗が抱きついて離れないコナンに嫉妬をしてるとは知らないなまえは、のんびりコナンとの会話を楽しんでいた。


「(んだよ。結局デートを楽しみにしてたのは俺だけだったのかよ)」
『あれ?あそこに居るの蘭じゃない?』
「「えっ!?」」
『ほら、やっぱり蘭だ。蘭〜!!』
「なまえ、どうしたの?今日デートだって昨日はあんなに浮かれてたじゃ」
『ストップ、ストップ!本人居るんだから黙って!!』
「あ…ごめん。それでどうしたの?」
『コナン君が迷子になっちゃったみたいだから探偵事務所に送ろうと思ってたの』
「え?コナン君が?」
『だから蘭にお願いしてもいいかなぁ?』
「もちろんよ!デート楽しんで来てね」
「ヤだ!僕、なまえお姉ちゃんと一緒にいる」
「こら。なまえを困らせたらダメでしょ?」


あたしの後ろに隠れちゃったコナン君。
んー…どうしようかなぁ。。


『そうだ!コナン君耳貸して?』
「何?」
『あのね…ごにょごにょ』
「…分かった。じゃあ今日は我慢する」


と、最後にもう一度快斗を睨んで、蘭と一緒にコナンは帰って行った。


「なぁ…」
『快斗、この前出来たアイスクリーム屋さん行こう!』
「えっ?」
『快斗の好きなチョコアイスがオススメなんだって!』


ほら、早く行こうよ。
なんて恋人繋ぎをされて満面の笑みで言われたら、さっきまでの黒い感情もどこかに消えてしまった。

やっぱり君じゃなきゃダメなんだ。
君はそれを知っているのかな?




【譲れないモノ】

(なまえだけはあの名探偵にやるわけにはいかねぇんだ)
(誰にもオメーだけは渡すわけにはいかねーんだ。早く元の体に戻んねぇと)





→あとがきという名の懺悔


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