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 07

残されていた封筒には来週出逢う約束の時刻と場所が書かれていた。
それも前回もらったラブレターとは随分と違うとても簡単な暗号を使ったラブレター。それにちょっとショックを受けたのはあたしだけの秘密だ。

それより問題なのはもう一つ残されていたカード。


【貴女の質問には明晩必ずお答えに参ります】
怪盗キッド


あの怪盗さんはドコまで自分勝手なんだ。
答えもせずに消えたと思ったら、こんなカード一枚で済ませるなんて!
人をバカにするのも程があるっつーの!

感情のままに、思わずそのカードを握り潰してしまった。
証拠が残らないようにカードを燃やし、あたしは園子の家に帰ることにした。
胸に残ったモヤモヤをそのままに。


「ねぇなまえ、今日はどうだったのよ?」
『来週から週一で会うことにはなったよ』
「ホントに!?」
『もちろん、お兄ちゃんには内緒で、ね』


園子が内緒の逢い引きなんて素敵っ!とか何とか騒いでるけど、あたしはとてもそんな気分じゃない。
今回はあの怪盗さんより有利に立てたと思ったのに、最後の最後であっさり逃げられてしまった。
悔しさで叫び出しそうだ。


「あんた何でそんな顔してるのよ?」
『ちょっと色々あったんだよ』
「やっと彼氏が出来るかもしれないんだから、もっと嬉しそうな顔しなさいよね!」


彼氏…あの怪盗さんとはそんな甘い関係じゃない。
どう言ったらいいのか分かんないけど、お互い相手の胸の内を探りあってる、そんなピリピリとした刺激的な関係。

とりあえず明日弁解に来るって言ってたし、あたしはそれを待つとしますか。
…あれ?あの怪盗さん、一体ドコに来るつもりなんだろう?
そんなこと一言も書いていなかった。


「今晩は。なまえ嬢」
『今晩は、怪盗さん』


こいつ堂々とあたしの部屋に不法侵入して来やがった!
窓の鍵だってちゃんと閉めてたのにっ!
ってこの怪盗さんに鍵の話しても始まらないか。


『それで?昨日の答えって何なの?それを教えてくれる為にわざわざ来てくれたんでしょう?』
「はい。なまえ嬢に納得していただけるかは解りませんが…」
『はぐらかす気なわけ?』
「いえ。真実を述べに参りました」


怪盗さんはあたしの部屋の窓に軽く腰かけたまま、あたしの部屋には一歩も踏み込まない。
それは彼なりの紳士道のつもりなのかもしれない。


「なまえ嬢はスネルの法則というのをご存知ですか?」
『光の屈折率のことでしょう?』
「ええ。とある一つの宝石にもう一つの宝石が眠っております。その宝石は月の光に反応するように出来ているのですが、月に翳すとその存在を誇るように輝き出すのです」
『マジックみたいだね。確か、炎に照らすと写真が浮かび上がる宝石があったと思うけど』
「よくご存知で」


怪盗さんは身動き一つせず、いつものように口角だけを吊り上げて、仮面の様な笑顔を張りつけていた。
…あたしはこの笑みが大嫌いだ。


「ご満足いただけましたか?」
『とりあえず質問には答えてもらったからね。今回はこれで許してあげるよ』


はぐらかされてるのは分かってる。
核心は何も教えてもらってないんだ。
でも、それはこれからでも遅くはないと思うんだよね。


「おい、なまえ。さっきから話し声が聞こえてる気がすんだけど誰か居んのか?」
『明日の予習してるだけだよ!煩くしてたならごめん!』


扉に向かって声を張り上げたところで怪盗さんが少し意外そうな声を出した。


「私のことをお兄様に言わないのですか?」
『簡単にゲームオーバーにされちゃうわけにはいかないからね』


皮肉の混じったイタズラな笑みを返せば、怪盗さんは楽しそうに声を潜めて喉の奥でクツクツと笑った。


「それではまた来週お逢いしましょう」
『そうだね』


怪盗さんが窓の外に飛び立った時に、ちょうどあたしの部屋の扉が開いた。


『なぁに?お兄ちゃん』
「キッドを追うのだけは辞めとけ」


いつもの瞳とは違う、探偵としてのお兄ちゃんの鋭くまっすぐな瞳があたしを貫いて体が動かない。
この瞳を向けられた時は、お兄ちゃんに追い詰められた犯人のキモチがわかるよ。


『何を今更…』
「いいか?暗号を解くくらいはいい。だけど、次に中森警部から連絡があっても絶対現場に行くんじゃねぇぞ?」
『…』


いつもの優しいお兄ちゃんじゃなかった。
あれは完全に探偵モードのお兄ちゃんだ。
怪盗さんの現場に一体何があるって言うのさ?


認めたくないけど、あたしの頭ではもう処理出来なくなりそうだった。


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