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 06

お兄ちゃんの分のご飯を作って簡単な荷物だけを持って園子の家に向かった。
指定された米花の森まではここからかなり距離があるから、アリバイ作りだけお願いして、すぐに園子の家も出る。

なんとか余裕な時間に米花の森の入り口に着くことは出来たけど…。


『ここからどうしろって言うのさ?』


こんなだだっ広いとこ指定しなくったって良かったんじゃないか?あの怪盗さん。
怪盗さんへの文句ばかりが溜まっていく中、ふと森の中を見ると不自然に風船が浮かんでいた。


『あれ?なんだろう?』


引き寄せられるように風船の元へと向かえば、ちょうどあたしの胸元くらいの高さで止まっていて。
風船に手を触れようとした途端にパンと弾けて、紙吹雪と一緒に一枚のカードが出てきた。
どうやら、あの怪盗さんは変な所で凝る性格らしい。

カードに指定された所まで歩いていけば、またそこには風船が浮かんでいて。を繰り返してたどり着いた場所は、そこだけぽっかりと空間が空いていて空から月明かりが差し込んでいた。


『後5分、か』


ずいぶんとムダに歩かされて時間をロスしてしまったらしいが、何とか約束の時間に間に合った。
さて、あの怪盗さん、今日はどこから出る気だ?
月明かりに照らされる空間の中に入って辺りを見渡すも怪盗さんの姿は確認出来ない。


『1分前……10、9、8、7』


怪盗さんを見つけるのを諦めたあたしは大人しく怪盗さんが出てきてくれるのを待つことにした。


『3、2、1』
「今晩は、なまえ嬢」


時刻ジャスト。音もなく、怪盗さんはあたしの目の前に姿を現した。
大胆不敵で神出鬼没、か。やってくれるじゃん!


「ラブレター、無事に解読出来たんですね」
『あたしをバカにしてんの?怪盗さんがヒント落として行ってくれたんでしょう?』
「おや?サービスのつもりだったのですが、お気に召しませんでしたか?」
『ふざけるなっ!』


確かにあのヒントがなかったら、今日ここに来れてたかは分かんない。
だけど、初めから解けないだろうってヒントを出される程、屈辱的なことはないんだよっ!


「そんなに眉間にシワを寄せるとせっかくの可愛い顔が台無しですよ?」
『うるさい!そんなことより、あたしの特典忘れてたりしないよね?』
「貴女の質問にお答えするんですよね?」
『じゃあ怪盗さんに質問ターイム!』


目は怪盗さんをしっかりと見据えたまま、口元に弧を描きこの後の怪盗さんの反応を待つ。


『怪盗さんがいつもやってる宝石を月に翳すあのオマジナイ。何を確認してるのさ?』


あたしの言葉を聞いて、さっきまで余裕ぶってた怪盗さんの空気がピンと張り詰めたように鋭くなった。
ビンゴ!


「あれは、」
『探し物かどうか確認してるんです。なーんて曖昧な答えはダメだよ。あたしは何を確認してるのかって聞いたんだから』


曖昧に聞いたらはぐらかされる。
それは分かっていたから、一生懸命に考えたこの質問。
別にあれに意味がなかったらそれはそれで良かったんだけど、これは絶対何かある。


『もちろん答えない、なんてのは認めないからね。怪盗さんが言い出した特典なんだから』
「…」
『さぁ、怪盗さん?答えてもらいましょうか?』


一定の距離を保ったまま、お互い身動き一つしないこの空気が痛い。
でも、せっかく怪盗さんがくれたチャンスなんだ。
あたしも引くわけにはイカナイんだよっ!


「貴女はそれを聞いてどうするおつもりですか?」
『答えになってないんだけど?』
「それに答えると言うことは貴女の身にも危険が及ぶかもしれないんです!」


痺れを切らしたように怪盗さんが声を張り上げた。
ちょっと予想外だけど、これくらいで動揺するわけにはいなかいとあたしはポーカーフェイスを決め込むことにした。


『あの戦場がどうとかいうヤツでしょ?だから?』


あえて淡々と言葉を返す。
月を背後にしてる怪盗さんの表情は見えなくても、動揺しているのは手にとるように分かった。
あの行為に一体何があるっていうのさ?


『危険だって言うなら、お兄ちゃんにも誰にも言わない。約束する』
「…」
『もちろん、あたしがソレを知ってるなんて気付かせるような迂闊なマネはしない』
「…」
『さぁ、答えて!』


あたしが叫んだと同時に強い風が吹いて思わず目を閉じてしまった。
風が止んで瞳を開いた時には、既に怪盗さんは目の前にいなくて、一枚のカードと封筒だけが残されていた。


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