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 05

家に着くなりお父さんの書斎へ行って、そこで暗号解読に挑むのが最近のあたしの日課。
だって、ここが一番資料が多いんだもん。


「なまえ、いい加減何やってんのか教えろよ」
『友だちが作った暗号解いてるの』
「暗号!?ちょっとそれ俺にも」
『ダメ!』
「何でだよ?」
『これはあたしに作られた暗号なの!分かんなかったらお兄ちゃんに聞けば?とか言われたら黙って引き下がれないじゃん!』
「でも解けねーんだろ?」
『まだ期限はあるから大丈夫!あたしのことはいいから邪魔するなら出てって!』


お兄ちゃんに嘘をつくのは心苦しいけど、ゲームオーバーにされるわけにはいかないんだよ!
問答無用でお兄ちゃんを追い出して書斎の扉を閉めると、バサリと一冊の本が落ちてきた。

お父さんはいつもキレイに片付けてるから、最近あたしが荒らした本だろう。
帰って来たらお父さんに怒られちゃうかな、と思いながらその本を拾うと見たことのない本だった。
あれ?こんな本、あたし読んだっけ?


『お兄ちゃーん』
「んだよ。俺を追い出したくせに、もう降参か?」
『違うって!この本落ちてきたんだけど、どこにしまってあったか分かる?』
「ん?これフランス語だな。だったら確かこの辺りに…あった。やっぱり一冊抜けてらぁ」
『フランス語…』


お兄ちゃんが本を戻した場所は、本が落ちてた場所とは全然違う方向にある本棚だった。
フランス語…方向…分かった!!


『お兄ちゃん!フランス語の辞書ってどこ!?』
「は?辞書ならそこにあんだろ?」
『あと中国の歴史の本出して!』
「どれのこと言ってんだ?」
『ほら、四神と方角について書いてあった本!』


お兄ちゃんもあたしが何かを閃いたのが分かったらしく、大人しく本を探すのを手伝ってくれた。
あれから二人して必要な本を全部探し出すとお兄ちゃんは黙って書斎から出ていった。
後はあたしの仕事だ。



次の満月の夜、貴女の家から白虎の方角にある森林公園にて、午後11時11分にお会いしましょう。



『出来た!』


白虎の方角…米花の森か。
あんなだだっ広い場所の何処に行けって言うんだよ!
あたしが米花の森に行った後は怪盗さんが見つけてくれるのかな?
ていうか、


『次の満月って明日じゃん!』


危なかった。
初っぱなからゲームオーバー喰らうとこだったよ。
たまたまあの本が落ちてこなかったらヤバかったな。
ん?たまたま?


『…』
「なまえー、腹減ったから飯作ってくれよ」
『…』
「なまえ?」
『え?あ、ごはんね。すぐ作るよ』


…あんのバ怪盗、余計なマネをっ!
あれ?でも、あの怪盗さんはあたしが暗号解けない方が良かったんじゃなかったっけ?
ホントにあの怪盗さんのことだけは何にも分かんないや。



「えー?アリバイ作りに協力しろ?」
『お願い!こんなこと頼めるの園子しかいないんだって!』


翌日、夜中の呼び出しにお兄ちゃんの追跡を回避するべく園子の家に泊まらせてもらうことにした。
蘭みたいな純粋な子を巻き込むのは気が引けたんだもん。


「つまり、今日あんたはあたしの家に泊まりに来るけど、ちょっと出かけるから、その間に新一くんから連絡があったらお風呂に入ってるとでも言えってことね?」
『うんうん!』
「どーしよっかなぁ?」
『この前のラブレターの呼び出しが今日だったの!』
「引き受けた!」


ホントに園子は恋愛の話が大好きだな。
そのキモチ、あたしにはよく分かんないんだけど、これを利用しない手はない。


『ありがとう!園子大好き!』
「この園子様にまっかせなさい!」
「何をオメーに任せろって?」
『あ、お兄ちゃん。今日園子の家に泊まることにしたから!』
「はぁ?俺の飯は!?」
『大丈夫!ちゃんと作ってから行くよ!』
「…あんた妹よりご飯の方が優先なわけ?」
「バーロー!なまえがいねぇのは俺にとっては死活問題なんだよ!」


お兄ちゃんと園子の下らない言い争いを聞き流しながら、今夜のことを考えていた。

文句は後回しにするとして、あたしに与えられた質問権。

何から聞き出すのが自分にとって有利なのか。
何を聞き出せば怪盗さんにとって不利なのか。


あたしの頭の中にあるのはそれだけだった。


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