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 03

怪盗さんが宝石を盗むかどうかの確認もせず、あたしはある場所を目指して全力疾走をしていた。
この体力と脚力だけはお兄ちゃんに感謝しなくちゃ。

絶対に怪盗さんは中森警部の作戦ごときで失敗するわけがないという失礼な前提の元、屋上までかけ上がったあたしは扉を全開にした。
どうやってここまで来たかは知らないけど、怪盗さんは既に来ていて、あの日と同じ様に月に宝石を翳している。
やっぱり中森警部は今回も怪盗さんを止めることは出来なかったらしい。


『ソレって何のおまじないなのさ?』


あたしもあの日と同じように返すとやっと怪盗さんがこっちを向いた。


「これはなまえ嬢。今日も私を追ってここまで来て下さったんですか?」
『怪盗さんを捕まえるって決めたからね。これからは毎回現場に来るよ!』
「それは楽しみですね」


月を背後にしてるから顔はよく見えないけど、口元をつり上げて笑ってるのだけは確認出来た。
その人をバカにしたような態度がムカつくんだよ!


『宝石、返してくれる?』


一歩ずつ怪盗さんに近づいていく。


「ええ。構いませんよ。これも私が探していたモノではありませんでしたから」


そう言って怪盗さんもカツカツと靴音を鳴らしながらあたしへと向かってくる。
後一歩の距離でお互いに歩みを止めて、差し出したあたしの手に宝石が乗せられる。
ところで、思いきり怪盗さんの頬を殴った。
人を殴るという行為は殴った方も痛いらしい。
手がジンジンする。


『この前のお返し』


怪盗さんはクツクツと喉で笑うだけで何も言わない。
さっきのがわざと殴られたのくらい、あたしにだって分かってる。
分かんないのは、怪盗さんが何でそんなことをするのか、だ。


「気は済みましたか?」
『全っ然』
「それは困りましたね」


顎に手を当てる仕草をして何か考えている怪盗さん。
そのポーズはお兄ちゃんが推理してる時によく似ていた。
それが何かイヤだった。
それはこの距離にいてもなお顔がよく分からないせいかもしれない。


「今日はお兄様はご一緒ではないんですか?」
『事件だってどっか行ったよ。メモは残して来たけど、まだ帰ってないんじゃない?』
「それは良かった。ここでお兄様まで出て来られては私が不利ですからね」
『思ってもない癖によく言うよ』


片手で宝石に付けられたチェーンを握ると、チャリっと音を立てて宝石が揺れた。
何でだろう。
この距離にいるのに捕まえられる気がしない。


「私を捕まえるのでは?」
『大人しく捕まってくれるの?』
「それはまだ出来ませんね」


なら“いつ”なら捕まってもいいと思っているのだろう。
聞いてみたい気もするけど、後ろで誰かが階段を登ってくる音がする。
どうやら今日はここまでらしい。


『怪盗さん、今日はここまでみたいだね』
「そうですね。それではまた月夜の晩に」


さりげなくあたしの手を取って、指先にキスをしてから怪盗さんは背中を向けた。
何しやがるってその背中を蹴ろうとした時には、怪盗さんはハンググライダーで夜空に飛び立っていて、あたしの足は空を切ることになった。


『チックショーっ!!』
「なまえ!無事かっ!?」


あたしの叫び声と共に入って来たのは中森警部ではなく、お兄ちゃんだった。
しかも、よく分かんないけど相当焦って来たのか汗だくだ。
この人何しに来たの?


『宝石は返してもらったけど、逃げられた』
「はぁ…オメーが無事ならそれでいい」


安堵の息を吐いたお兄ちゃんがぎゅーって抱き締めてくれる。
お兄ちゃんの心臓が忙しなく脈打ってて煩いくらいだ。けど、悔しいけどこの場所があたしの一番落ち着く場所なのは否めない。


『ねぇ、お兄ちゃん』
「ん?どした?」
『あの怪盗さんってどっかにキスしないと帰れない人なの?』
「今度はドコにキスされた!?」


指先、と手を出しながら答えるとお兄ちゃんは何も言わず黙々とキスされた場所を服で拭って…って痛いイタイいたいっ!!!


『もうっ!何すんのさ!?』


お兄ちゃんから手を奪い返して、ふーふーと赤くなった指先に息を吹き掛けているとその手を取られて、帰るぞってお兄ちゃんは歩き出した。

悔しいけど、今回は怪盗さんに完敗だ。
次は何か別の方法を考えないと。

怪盗さんがこちらの手を読んでくるなら、あたしは更にその先を読んでいかないと捕まえられない。

グイグイとお兄ちゃんに引っ張られるまま、あたしは次の作戦を必死に考えていた。


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