×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


 29

いきなり鳴り響いた携帯に思わず体がビクついた。
けど、それはお兄ちゃん専用の着うたではなく、特別仲のいい友だちグループの着うたで安堵の息を吐いた。
ちなみに怪盗さんもお兄ちゃん同様専用の着うたに設定していたりするけど、それは本人のあずかり知らぬところだ。


『あ、園子からだ』
「あの鈴木財閥のお嬢様から?何の用だ?」
『さぁ?』


一度怪盗さんと顔を見合わせてから通話ボタンを押した。
ホントに園子が何の用だ?


『もしもし?』
「遅い!いったい何してるのよ!?」
『はぁ?』
「今日うちに泊まりに来るって言い出したのはあんたの方でしょうが!!」
『あー!』


そういやそうだった!
いつものようにお兄ちゃんのご飯作って出たからすっかり忘れてた!
怪盗さんとの話が長引きそうだったから、最後まで話せるように今日は園子の家に泊まらせてもらう約束取り付けてたんだった。


「なまえ?あんた、まさか忘れてたとか言わないわよね?」
『い、言わない言わない!ちょっと真剣に話し込んでたから一瞬分かんなかっただけで』
「それを忘れてたって言うのよ!!」


園子の怒鳴り声が止まらないが、正論だから何も言い返せない…。
怪盗さんと今日会う約束を取り付けたその日に園子の家に泊めてもらえないかと頼み込んで荷物も先日持って行ったというのに、どうしてそんな重要なことを忘れてたんだ。
このままうっかり家にでも帰った日にはお兄ちゃんから質問攻めに遇うところだったじゃんか!


『園子ごめん!でも、もうちょっと用事かかるんだ』
「あんた今どこで何してんのよ?真剣な話がどうのとか言ってたけど」
『彼氏ん家で話してるんだけど、まだ話終わんなくてさ。もうちょっとで終わ』
「何ソレ!もしかして新一くんに秘密で会ってたのバレちゃったの!?」
『違うってば!怖いこと言わないでよね!?』
「もしかして別れ話がこじれてんの?」
『それも違う!そもそも別れ話ならそれこそもう二度とあたしに近づかないでよね!とでも言い捨ててお兄ちゃんに言えば済む話じゃんか!!』


あたしたちのやり取りがデッドヒートしていくにつれ、怪盗さんが肩を震わせて笑いの発作をこらえているのが見えた。
後で覚えてろよ。こんのバ怪盗がっ!


『じゃあ、詳しい話はそっち行ったら教えるから』
「じゃあ、またあたしん家来るときにでも連絡してよ。なんなら迎えの車寄越すしさ」
「いや、俺が責任もって送ってくって」
『彼氏が送ってくれるって言ってるから大丈夫だよ。また後で連絡するね』


無理矢理話をまとめたところでそそくさと電話を切った。
ら、待ちきれなかったといわんばかりに怪盗さんがお腹を抱えて爆笑し始めた。死ね!


「お、オメーらいつもあんなやり取りしてんのかよ?コントじゃねーんだから、っははは!」
『もう!いつまで笑ってるつもりなのさ!?園子は三度の飯より恋バナが好きなんだから仕方ないでしょ!?』


これは正確には違うんだけどさ。
三度の飯より人の噂話が大好きで、その噂話よりも更に恋バナが大好きなのだ。
京極さんっていう彼氏がいるにも関わらず、相変わらずカッコイイ人を見つけては騒ぐくらいには。
その代り、京極さんの話となれば、どんなに些細なことだろうと惚気話を聞かされる羽目になる。
しかもエンドレスリピートで話す度に話が盛られていくんだからどこまでが真実かわかんなかったりするんだよね。


「そういや、オメー俺のこと彼氏って説明してんのか?」
『それは快斗だって一緒じゃん。前に学校の友だちにあたしのこと彼女だって言ってたじゃんか』
「俺の話は今はどうでもいいんだよ。で、どうなんだ?」


やっと笑いの発作から解放されたらしい怪盗さんにやけに真面目に聞かれた。
別に本当に付き合ってるわけじゃないんだからどうでもいいじゃん。
あれ、もしかして怪盗さんって彼女いるの?


『園子には怪盗さんに初めてラブレター貰った頃からアリバイ作りに協力してもらってるからね。園子は恋バナ好きだし、彼氏ってことにしたんだよ。初めてのラブレターの時に“ラブレター貰った”って言っちゃったし、そのまま毎週会うことになったじゃん?だから、自然と“彼氏とデート”って話になっちゃってさ』
「なんだよ?俺とのデートじゃ不満だってのか?」
『そういう問題じゃないと思うんだけど…もしかして怪盗さん彼女いたりするの?』
「は?」


話してる内に少しずつ不機嫌になってく怪盗さんに思わず尋ねていた。
だって、本当に彼女がいるんなら毎週快斗と二人で会うのは誤解を受けかねない。
昼ドラよろしくな修羅場に鉢合わせなんてごめんだ。
あたしは昼間の怪盗さんとは楽しく会いたい。


『ほら、前に江古田の時計台で待ち合わせしてた時に誰かと勘違いされてたじゃん?中森さん?だっけ?』
「青子?青子はただの幼馴染だぜ?」
『ふーん?』
「なんだよ?信じてねーのかよ?」
『でも、怪盗さんがデートで待ち合わせって言ったらみんなが勘違いするくらいには仲がいいんでしょ?』


なんだろ。あたし、こんな嫌味な言い方するつもりなかったのにな。
口が勝手に喋ってる感じだ。言葉が止まらない。


「なまえ、もしかして妬いてんのか?」
『なんでそうなるわけさ!?』


怪盗さんの言葉に顔に熱が集まる。
別に図星を指されたから焦ってるわけじゃない。
ただ、怪盗さんが楽しそうに面白おかしく言うからだ。


『あたしはただ怪盗さんに彼女がいたら毎週二人で会ってるのよく思わないだろうなと思って!』
「はいはい。今はそういうことにしといてやるよ」
『ホントだってば!!!』


あたしがムキになればなるほど怪盗さんは愉快そうにクツクツと笑う。
それを見て、ふと出会ったばかりの怪盗さんの仮面のような笑みのことを思い出した。


『今みたいに笑ってればいいのに』
「ん?」
『怪盗さんは覚えてないかな?あたしと初めて会った頃“怪盗さん”は仮面みたいに貼り付けた笑みしかしてなかったんだよ』
「へ?」
『それか、人を見下してる笑顔。だから、あたしは怪盗さんの笑顔が大嫌いだったんだ』
「…」


懐かしいな。
あの頃のあたしは怪盗さんに反発して対抗意識剥き出しで対面してたのに、今ではこうして普通に話してるんだもんなぁ。
人生何がどう転ぶかわかんないから面白いのかもしれない。


『でも、あたしは快斗の表情は好きだよ?』
「え?」
『“快斗”は初めて会った頃から感情表現豊かだったから。だから、快斗と一緒に過ごす時間は嫌いじゃないなってアイスクリーム屋さんで昼間会うことOKしたんだよ?』


思い出話をするにはまだ早いかもしれない。
あたしと快斗の時間なんて怪盗さんの時から勘定しても短いものだ。
だけど、短くても内容は濃かったから随分昔からの付き合いなような気もしてくるから不思議だ。
少なくとも、あたしが怪盗さんに抱く気持ちは面白いくらいに変わってる気がする。


「無駄話してねーで行くぞ。鈴木財閥のお嬢様が待ってんだろ?」
『あれ?快斗、もしかして照れてる?』
「うっせー」


あたしの手を握って部屋を出た怪盗さんの顔はどこか頬が赤いような気がした。


[ prev / next ]