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 24

お店から出た後の怪盗さんは、いつもの昼間の怪盗さんだった。
他愛のない話をしてはあたしを笑わせて、自分も楽しそうに笑ってる普通の高校生。
さっき覚悟を決めたような真剣な表情をしてたとはとても思えない。

でも、これが“黒羽快斗”としてあえてそういう風に振る舞ってるっていうのは分かってたから、あたしも“工藤なまえ”として普段通りに振る舞っていた。
さっきした質問も、夜の怪盗さんのことも知らないただの女子高生として。

だから、たぶん今のあたしたちを見ても、周りからは高校生のカップルか仲のいい友だちにしか見えないハズだ。


『ところで、ドコへ向かってるの?コンビニで飲み物とかまで買ってさ』
「俺ん家だよ。なまえが好きそうな飲み物が分かんなかったから、買っといた方が無難かと思ってな」


ちなみに一緒に買った大量のお菓子は怪盗さんのおやつらしい。
怪盗さん、いつもどんな食生活してんのさ?


「ここが俺の部屋。兄ちゃんに連絡すんなら“マリア”の家にいるって言っとけよ。必要なら俺が電話出てやるから」
『そうするよ。その前にお兄ちゃんのご飯頼まないとだからちょっと待っててね』


怪盗さんの部屋はいかにも男の子の部屋ですって感じだった。
いつも片付いてるお兄ちゃんの部屋と比べると、ちょっと散らかってる感じがするけど、たぶんこれが一般的な男の子の部屋なんだと思う。
お兄ちゃん以外の同年代の男の子の部屋なんか入ったことないから、あくまでイメージだけどさ。


『あ、蘭。ちょっと頼みがあるんだけどいいかな?』
「なぁに?」
『今日ちょっと家に帰るの遅くなるから、お兄ちゃんのご飯お願いしていい?あたしがいないとお兄ちゃん餓死しちゃうからさ』
「別にいいけど…あんまり遅くなると、また新一煩くなっちゃうから気をつけなよ?」
『分かってるって。じゃ、よろしくね。』


これでお兄ちゃんのご飯の心配はしなくていいな。
後はお兄ちゃんか。


『お兄ちゃん。あたし、今日帰るの遅くなるから』
「は?俺の飯はどうすんだよ!?」
『さっき蘭に頼んだから安心しなよ』
「それならいいけどよ。で、いつ頃帰って来るんだ?」
『んー、ちょっと分かんないな。そんなに遅くなんないように気をつけるよ。明日も学校だしさ』
「オメー、今どこに居んだよ?」
『マリアの家だよ?』
「あんまりマリアさんに迷惑かけんなよ?」
『分かってるって。それより、お兄ちゃんは早くマリアの暗号解きなよ』
「わーってるよ!また帰る時は連絡して来いよ。なんなら迎えに行ってやっからさ」
『うん。じゃーね』


電話を切ると、隣でマリアの声を出そうと準備してた怪盗さんが、出番が無くて肩透かしを食らったような顔をしてた。


「兄ちゃんにしてはえらくあっさり引き下がったな?」
『相手がマリアだからだよ。お兄ちゃん、あの暗号のおかげでマリアを高く評価してるからね』
「兄ちゃん、まだ暗号解けてねぇんだって?」
『そうなんだよ。なんか必要な暗号がまだ一つ足りないんだってさ』
「なまえの方が素質あるんじゃねーか?俺、あの暗号兄ちゃんと同じくれーは時間かかっと思って作ったからな」
『それは意地の差だね。あれ見て、最近の暗号がどれだけ手抜きされてたかが分かってムカついたから、絶対今日までに解いて文句言ってやるんだって決めてたんだよ』


それを言うと怪盗さんは苦笑いをしてた。
手抜きしてたつもりはない、ってさ。
でも、あんな暗号をあたしとお兄ちゃんの二人分あっさり作っちゃう怪盗さんにそんなこと言われても信じられるか。
いくら暗号は解くより作る方が簡単だって言っても限度があるよ。


「俺、毎週なまえに会えんの楽しみにしてたんだよ」
『え?』
「初めの頃からヤベーとは思ってたんだ。オメーの質問は。ただの女子高生のオメーを危険な目に遇わせたくねーから始めたゲームだっつーのに、知らなくていいことばっか聞いてくんだからよ」


怪盗さんは悔やんでるみたいに、表情を歪ませた。
それはあたしをゲームに参加させたことに対してなのか、ゲームを続行させたことになのか、それとも他のことか…何に対してなのかまでは分かんなかったけど。


「でも、毎回予想外なことするオメーに興味が沸いちまって、ゲーム続行しちまったし、俺がバカやったせいでオメーが現場に来ることになっちまって、結局なまえを危ねー目にも遇わせちまったけど、昼間なら危険なこともねーだろって続けてたら…思ってた以上に楽しかったんだよ。キッドとしてじゃなく、黒羽快斗としてオメーに会うのが。ホントに、純粋に楽しかったんだ」
『なら、そんな顔しないでよね。快斗、今にも泣きそうだよ?』
「俺がゲーム続行しちまったせいで、オメーは知り過ぎちまったんだよ。オメー、前以上に危険な位置に自分が居るって自覚、ちゃんとあっか?」
『そんなの今更だね。物騒な人たちの邪魔したんだ。あたしの顔もバレてるし、あたしが命狙われても自業自得だよ。それに、』
「んだよ?」
『あたしが怪盗さんの素顔知ってることに対してもソレ言ってんだったら、本気で殴るよ?わざとあの怪我負ったことに関してだけは、あたしまだ許してないんだからね』
「…ホント、オメーには敵わねぇな」


怪盗さんが苦しそうに表情を歪ませたまま苦笑いしてる辺り、ソレも含まれてたんだろうとは思う。
けど、怪盗さんの素顔知ったから何だってのさ。
あの時は他にどうしようもなかったんだから仕方ないじゃんか。
命に関わることだったんだ。
第一、あたしは警察でも探偵でもない。
怪盗さんの逮捕より、怪我人の手当てを優先して何が悪いってのさ。


『ところでさ、さっきから気になってんだけど、聞いてもいいかな?』
「何だよ?」
『そのおっきなパネルに何があるのさ?』
「え?」
『快斗、この部屋に入ってからずっとそのパネル気にしてんじゃん』


部屋の壁に大きく飾られた故人の世界的マジシャンのパネル。
お母さんが昔お世話になったことがある黒羽盗一さん。
お母さんのナイトの一人なんだって、教えて貰ったことがあるから顔と名前くらいは覚えてる。


「俺、一回もこのパネルまともに見てねぇぜ?」
『誰も“見てる”とは言ってないよ。“気にしてる”って言ったんだよ。正確にはずっと注意を払ってる、って言ったところかな?だから気になって仕方ないんだよね』
「やっぱオメー、兄ちゃんより素質あんじゃねーか?このパネルの向こうにキッドの秘密があんだよ」
『へぇ、そうなんだ?ありがと。話続けていいよ』
「…見たいとは言わねーのかよ?」
『それはあたしの質問権外だからね。快斗の身の上話は質問出来ないし、快斗も答えないってルールだもん。それに今週の質問はもうしたし、あたしはあれが最後の質問だって言ったんだ。あたしだって自分の発言くらいは責任持ってるよ』


それにキッドの秘密って言ったって、あたしが見たからってどうなるわけでもないだろうしね。
それで怪盗さん捕まえられるって言うんなら気になるけど、違うでしょ?


「最後最後言うなよな。もう俺の時にはなまえに会えねぇみてーじゃねぇか。それがイヤだったから、質問に答えてやるって言ったんだぜ?」
『そうなの?』
「あの質問も身の上話に入るんだよ」
『だったらそう言って断れば良かったじゃんか。あたし、ルールはちゃんと守るよ?』


怪盗さんに出来る最後の質問だと思ってたのに、あれもアウトだったのか。
あれ?じゃあ、何で怪盗さんはルール無視してまで答えてくれるとか言ったんだ?


「なまえがゲーム終了とか言うからだろ?」
『だって、もう怪盗さんに出来る質問がないんだもん。聞きたいことは全部聞いちゃったしさ』
「もうキッドの俺としか会わねぇって言われたのが効いたんだよ。それにあそこまでバレてんなら、もう話しちまった方がいいとも思ったしな」
『よく分かんないけど、ソレってあたしが聞いちゃっていいの?』
「別に構わねーよ。さすがに外で喋るわけにはいかねぇから、家に呼んだんだ」


怪盗さんは一度瞳を閉じて、呼吸を落ち着かせると、ソレを再び開いた時には瞳に強い光を宿してあたしをまっすぐに見つめて言葉を続けた。


「オメーの言う物騒なヤツらはな、初代キッドを…俺の父さんを殺したヤツらなんだよ」


そうあたしに告げた怪盗さんの瞳には少し危なげな熱が込もっていた。


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