×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


 23

「へぇ?今日はわざわざ電車に乗ってデートに出かけるんだ?」
『うん。江古田におっきな時計台があるでしょ?あそこで待ち合わせなんだよ』
「あー!それってキッド様が前に現れたとこじゃない!?」
『そうそう。お兄ちゃんが初めて怪盗さんと対決したとこ』


放課後に駅に向かってたら、たまたま園子に会って捕まってしまった。
早く行かないと怪盗さんもう待ってると思うんだけどな。


「まぁ、新一くんの束縛がまた厳しくなる前にしっかり遊んで来なよ。いつかあたしにもちゃんと彼氏紹介してよね?」
『うん。じゃあ行って来るよ。園子また明日ねー』


散々デートだって言っては園子に協力してもらったのに、今更怪盗さんは彼氏じゃないよとは言えないよなぁー。
でも、噂は拾うのも広げるのも大っ好きな園子がずっと黙ってくれてるって、やっぱりお兄ちゃんのおかげ(?)かな?


「お、来た来た。なまえー!」


時計台に着いてみたら、怪盗さんはお友だちらしき人たちに囲まれていた。
あれ?今日は二人きりじゃないのかな?
え?他人がいる中でどうやってあたしの特典使えばいいのさ?


「黒羽、この可愛い子誰だよ?」
「俺の彼女だよ。これからデートだっつっただろ?」
「は!?デートって中森さんとじゃなかったのかよ?!」
「なんでそこで青子が出てくんだよ。青子なんかよりなまえのが断然可愛いだろーが!!」
「ぜってー嘘だって!こんな可愛い子が黒羽なんか相手にするわけねーじゃねぇか!!」
「おい!ソレどーいう意味だよ!?」


なんかみんなでわいわいと騒がしいけど、学校での怪盗さんはこんな感じなのか。
へぇ、怪盗さんって普段はいじられキャラなんだ?
何か意外だな。


『ねぇ、快斗。今日はみんなも一緒なのかな?』
「え?俺らもいいの!?黒羽の彼女、話分かんじゃんか!じゃあ、とりあえずどっか行って、二人の出会いから話してもら」
「バーロー!デートなんだから二人で出かけるに決まってんだろ!?こいつらは冷やかしに来ただけだって!ほら、オメーらもさっさと帰れよな!なまえが困ってんだろうがっ!!」
「ちぇっ。黒羽、明日詳しく話聞かせてもらうからな!みんな行こうぜ?」
「黒羽、また明日なー」
「おー。ほら、俺らも行こうぜ?」
『うん』


怪盗さんのお友だちご一行がいなくなったところで、歩き出した怪盗さんの後を着いて行った。

それにしても、夜の怪盗さんは警察もお兄ちゃんも手玉に取ってるのに、昼間の怪盗さんはお友だちに翻弄されてるのか。
あー、お兄ちゃんも探偵モードと普通の時とでだいぶ印象違うからそんなもんなのかな?
学校での怪盗さん観察出来たら楽しそうなのになぁー。


「オメーさっきから何真剣に考えてんだ?」
『快斗の学校生活はどんな感じなのかなぁーって思ってただけだよ』
「はぁ?」
『そんなことより、今日はどこへ行くのさ?』
「もうすぐ着くぜ?そこの看板出てる店だよ」


怪盗さんが指した先には、古風な感じの小さな喫茶店があった。
こんな路地裏みたいな場所にあって、お客さん来るのかな?
あれか?隠れ家的なスポットってヤツか?


『カップル限定チャレンジ?』
「これ今週で終わっちまうんだよな」
『まさか、これ食べに来たの?』
「そーゆーこと。ほら、入るぜ?」


入るぜって言われたから着いて行ったけど、カップルでロールケーキ一つ食べることのドコがチャレンジなんだろ?
甘いもん好きなカップルなら普通にイケるんじゃないか?


『何、この大きさ!?』
「思ってたよりデケーだろ?」
『いやいやいや!限度ってモノがあるから!!』


普通なサイズのロールケーキが丸々出てくるんだと思ってたら、ドカンとテーブルに置かれたロールケーキにビックリした。
だって、太さは一般的なちょっと大きめなロールケーキでも3本分は軽く入りそうなくらいあるし、長さも通常の倍以上は確実にあるよ!?
こんなの二人で食べきれるわけがないじゃん!!


「これで味は飛びっきりに美味ぇんだぜ?最高だろ?」
『……さすが“あたしは甘いモノがあれば生きていけるの!”って言うだけはあるね』
「何だよ。もうあの暗号解いちまったのか?」


そう、あたしへの暗号を解いたらそう書いてあったんだ。
あれ解いた時も、怪盗さんらしいやって思ったけど、甘いモノが好きなあたしが引くだけの大きさのこれを見て、瞳を輝かせて早く食べたい!って幸せそうな顔してる怪盗さんには脱帽だ。
どんだけ甘いモノが大好きなのさ。
血糖値とんでもないことになってんじゃない?


「飲み物は全てのメニューから自由に選べます。このケーキを完食されたら看板に書いてある通り、一切料金はいただきません。時間制限はありませんので、ごゆっくりどうぞ」
「いっただきまーす!」


絶対食べれないだろうって自信あり気に店員さんが説明し終わった途端にケーキを切り分け始めた怪盗さん。
あたしには普通のケーキ分に分けたのをくれたけど、自分用のは初っぱなから分厚く切ってる。
あたし、飲み物珈琲にしといて良かった。
怪盗さんみたいにソーダフロートとか甘いモノだったら、絶対食べれない。


「あ、なまえは無理する必要ねぇからな?俺が責任持って食うから!」
『ははは…お願いするよ』


ケーキを頬張りながら、至福の表情をしてる怪盗さんに、あたしはもう空笑いしか出ない。
あたしも一口食べてみると確かに食べたことないくらい美味しかった。
こんだけ大きいんだから、味もきっと大味なんだと思ってたのにどうやって作ってるんだろう?


「あー、美味かった!満足満足!んで、今週の質問は何だ?」
『…その前に快斗の胃袋がどうなってんのかがあたしには謎だよ』


あれだけの存在感を主張していたロールケーキは怪盗さんによって机の上から消滅してしまった。
ちなみにあたしは二皿しか食べてない。
気付いたらどんどんケーキが短くなって、無くなってたのだ。
怪盗さん、マジックで消したんじゃないか?とまで思うけど、心底満足気な顔してるのを見る限り、ホントに食べちゃったらしい。
怪盗さん、甘いモノは別腹って前に言ってたけど、甘いモノはブラックホールの間違いだな。


「細けーこと気にすんなって!で、質問は?」


どこが細かいんだ。どこが。
とは思ったけど、珈琲と一緒にその言葉も飲み込んだ。
きっと、この怪盗さんはケーキバイキングとか行ったら、職人さんが泣くくらいの量をあっさり食べるんだろうな。


『気を取り直して…今週の質問ターイム!』
「おー!」
『快斗とあの物騒な人たちの関係を教えてよ』
「…へ?」
『快斗、前に言ってたよね?探し物について“最初から知ってたわけじゃない”って。物騒な人たちが言ってたってさ。つまり、物騒な人たちは最初から探し物をしてたけど、快斗は別の理由で夜の姿をしてたはずなんだ』
「…」
『でも、何かの理由があって自分から物騒な人たちに近づいて行ったってことでしょ?そこで、物騒な人たちが探し物をしてることを知って、自分が先に見つけて阻止しようと思ったってとこじゃない?じゃないと、快斗がオマジナイをして探し物を見つけてる理由が分かんないんだ。不思議な力を求めてるようには見えないからね』
「…」
『で、もう一度聞くよ?快斗とあの物騒な人たちの関係って何さ?』
「…」


あたしが話を進めるにつれ、怪盗さんの顔が険しくなっていった。
昼間の怪盗さんの無邪気な瞳じゃない、鋭さを増したソレがそれには触れるなって言っていた。


だけど、あたしはもうこれくらいしか質問が思い付かなかったんだ。
怪盗さんの身の上は話せない、そう言って始まったゲームだから、怪盗さんが怪盗を始めた理由も、昼間の怪盗さんのことについての質問もタブー。
夜の怪盗さんのことについての質問しか出来ない。

あたしが調べた限りで分かったことは、何故か怪盗さんが8年前姿を消した怪盗さんと同じ姿をしてるってこと。
最初は何であんな目立つ格好してるんだろうって思ってたけど、あの衣装で昔姿を消した“怪盗キッド”として姿を現すことに理由があったんだと思う。
でも、それは怪盗さんの身の上話になるんだろうから聞けない。

だったら、もうこれを聞いてゲームを終わらせちゃえばいいと思った。


『怪盗さん、これはあたしからの最後の質問なんだよ。もう“怪盗さん”への質問が他に思い付かないんだ。“快斗”に関しての質問は出来ないルールなんだからさ』
「それだけは言えねーな、って言ったら?」
『それならそれでいいよ。ゲーム終了ってだけ。今度快斗に会う時は、もう夜の姿だけになるってだけの話だよ』
「…」


怪盗さんは、鋭さを増した瞳でずっとあたしを見てるから、あたしも視線を逸らさなかった。
お兄ちゃんの時に経験してるから知ってるんだ。
逸らした時点であたしの負けだってさ。

でも、怪盗さんの瞳の中に何か黒い…違うな。熱い何かが見える。
きっと、ソレが質問の答えだ。


「オメー、まだ時間大丈夫か?」
『平気だよ。もう自由の身だからね。お兄ちゃんに遅くなるって言えばいいだけだもん』
「なら、場所変えようぜ。質問に答えてやるよ」


そう言った怪盗さんの表情は、夜の怪盗さんとも、昼間の怪盗さんとも違う、初めて見るモノだった。

きっとこの顔が“黒羽快斗”と“怪盗さん”の混ざった表情なんだろうってあたしはその時感じてた。


[ prev / next ]