×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


 21

問題の金曜日。
あたしは“マリア”なんていう架空の人物に会ったことなんてもちろんないから、怪盗さんがどんな変装をしてくるのか楽しみにしてた。


ピンポーン


『はーい』
〈Hi!なまえ!久しぶりね!あたし、今日をどれだけ楽しみにしてたか分からないわ!平成のホームズに会わせてくれるんでしょう!?〉
《マリア、お兄ちゃんなら逃げたりしないから落ち着きなって。興奮し過ぎだよ?》


玄関を開けると、あたしと同じか少し年下に見えるくらいの女のコがいた。
中身は怪盗さんだって分かってるけど、ふわふわな金髪にカラコンだろうけど、碧眼…って怪盗さんやり過ぎじゃない?


「なまえ、マリアさん来たのか?」
「あ、あ、あああの!はっはじ…はじめまっ…」
『マリア、一回落ち着こうか。はい、深呼吸してやり直し』
「はじめまして!マリアです!平成のホームズにホントに会えるなんて夢みたいっ!」
「どうも。工藤新一です。妹がお世話になってるみたいで」
「なまえ…あっ、えっと…妹さんには、あたしが助けてもらったんです!男の人に絡まれて困ってたら、追い払ってくれて…」
『日本人は英語で会話してたら近付かない人が多いからね。チャラチャラした男だったし、英語なんて分かんないだろうからってしばらく英語で会話してただけだよ』
「とりあえずマリアさんに中に入ってもらえよ。俺、珈琲入れて来っから」
『お兄ちゃん、ありがとう。ほら、上がって?』
「おジャマイタシマス」
『マリア、そこは“お邪魔します”でいいんだよ?』
「え?お邪魔します?」
『そうそう』


さすが変装の名人の怪盗さんだな。
これ、ウィッグだって気付かれなきゃバレないんじゃないか?


「ほら。マリアさん、珈琲に砂糖とかいるか?」
「あ、なくて大丈夫です。後、これお約束してた暗号です。平成のホームズには簡単かもしれませんけど…」
「サンキュな」
「なまえ!い、今、新一さんが笑ってくれたわっ!このあたしによ!?」
『分かったから、少し落ち着きなって。あたしの分の暗号は?』
「これよ!今回こそはなまえにだって解けないはずだわ!」
『意地でも解いてあげるから大丈夫だって』


♪〜♪〜


「はい、工藤です。え?殺人事件ですか?…はい。すぐ向かいます。
悪ぃな。せっかく来てもらったのに、俺出かけねぇといけなくなったから」
「応援してるので、頑張って下さい!あ、その前にあ、あたしとあ、あああく…あくっ…」
『はい、マリアまたNGー。もう一回やり直し』
「あたしと握手して下さいっ!!」
「ん?これでいいのか?」
「ありがとうございます!もう今日は夢みたいな日ねっ!憧れの平成のホームズに会えただけじゃなくて、握手までしてもらえたのよ!?なまえもそう思わない!!?」
『分かったから、そんなに興奮しないでよ。お兄ちゃん、遅くなるようならちゃんと電話してよね?』
「わーってるよ。じゃあ行って来っから。マリアさんはゆっくりして行ってくれな」
「はいっ!」


お兄ちゃんが出て行った途端に、ふわふわのキャピキャピお嬢様みたいだったマリアは一気に柄が悪くなった。
っていうか、怪盗さんが素に戻った。
束の間の幻ってきっとこういうことを言うんだろうな。
短い命でした。


「あー不味ぃー。なまえ、砂糖くれよ」
『はい。初めから砂糖入れとけば良かったのに』
「まぁ、これで兄ちゃんの疑いも晴れたんじゃねぇか?」
『元はと言えば怪盗さんがうちにご飯タカりに来たのが原因だったんだけどね』
「へ?」
『お兄ちゃん、それで男でも招き入れたんじゃないかって、あたしの部屋探ってあのノート見つけたって言ってたよ?』
「マジ?それが俺だって気付かれたら、俺、マジで兄ちゃんに殺されんな」
『そこまではしないだろうけどさー。握手なんかして大丈夫だったの?』
「は?」
『いくら変装の名人の怪盗さんでも、男の人の手だよ?お兄ちゃんが違和感でも感じてこのお芝居がパーになったらどうしてくれんのさ?』
「大丈夫だろ?それよりあの解けねー暗号に頭使うんじゃねーか?」
『解けない暗号?』
「とっておきのを作ってくるっつっただろ?あれはいくら兄ちゃんでもそう簡単には解けねーよ」


お兄ちゃんが暗号が解けずに苦労してる姿でも想像してるのか、怪盗さんは愉快そうにクツクツと笑ってた。
いくら外見が可っ愛いー女のコでも、普通に怪盗さんの声と表情でそんなことされると…言っちゃ悪いが、ただの変な趣味の危ない人にしか見えない。


『それで?あたしの暗号が待ち合わせの変更とかってオチないよね?』
「バーロー。それこそこんな芝居した意味がなくなるじゃねーか。普通の暗号だよ。ただし、ちょっと難易度は高いけどな」
『…絶対解いてやる』
「オメーって意外と負けず嫌いだよな」


怪盗さんが呆れたように笑ってるけど、これって“マリア”からあたしへの挑戦状じゃん。
そんなの意地でも解くに決まってるじゃんか!
絶対お兄ちゃんより先に解いてやるんだからっ!!


「なんか燃えてるとこ悪ぃけど、今度の待ち合わせ変えてもらっていいか?ちょっと予定入っちまってよ」
『え?別にいいけど、いつにするのさ?ってかそれってあたしの特典もナシなわけ?』
「いや、あのノート見りゃちゃんと解けてたのは分かったから、特典は継続。日時だけずらしてくれよ。火曜日の放課後だったのを木曜にして欲しいんだけど」
『分かった。場所はあのままでいいんだね?』
「おう。遠いとこで悪ぃけど、江古田の時計台な」
『うん。それは別に構わないんだけどさ…』
「んだよ?」
『今度は何食べる気なのさ?』
「あ、やっぱバレてた?食うもんで場所決めてるっての」
『あたし、そこまでバカじゃないよ?ってか、怪盗さんが言ったんじゃん。あたしは意外と鋭いってさ』


悪戯がバレた子どもみたいな表情をした怪盗さんに、今度はあたしが呆れた表情を返した。
あれだけチョコのオンパレードしてて気付かない人なんかいないって。


「まぁ、それは当日のお楽しみっつーことで。兄ちゃん帰って来る前に帰るわ。マリアやってんの俺も疲れっし」
『お兄ちゃんに後つけられて変装解いた瞬間バレた、なんてヘマしないでよね?』
「バーロー。誰に言ってんだよ?」
『世間を騒がせてる、いろんな意味で今大人気の怪盗さん』
「分かってんなら、んなバカな質問すんなよ。じゃーな」


怪盗さんはズカズカと玄関まで歩いて行ったクセに、玄関を出た途端に女のコ歩きへと変えた。
人目のあるところではあくまでも“マリア”でいるつもりらしい。
あたしはお兄ちゃんが帰って来る前にシュガースティックを処分して、後片付けを始めた。

怪盗さんからの暗号、次に会うまでに解けてたらビックリするかな?
そう思うと、早く暗号が見たくなってご飯を作るのは後回しにして、暗号の入った封筒を開けた、んだけど。


『何これ!?最初のヤツより意味分かんないんだけど?!』


どの辺が“ちょっと”難易度が高いんだ?
めちゃくちゃ難易度高いじゃんか!!
これを見たら、最近のラブレターがかなり手抜きされてるのが分かってイライラしてきた。



絶対これ解いてやるんだからっ!!


[ prev / next ]