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 20

やっぱりお兄ちゃんはあのノートをデータで残してたか。
やってると思ったんだよね。
ノートをあたしの机の上に置いてる時点でさ。
ホントなら、自分が持っとけば、あたしに処分されずに済むんだもん。


「で、もう一度聞くぜ?あのノートは何だ?」
『はぁ…あたしの負けだね。あれはお兄ちゃんの推測通り、暗号解く為に走り書きしてたノートだよ』
「この暗号、待ち合わせ場所とかが書いてあるんじゃねぇのか?だから、オメーは夜にわざわ」
『あはははっ!待ち合わせ?そんなわけないじゃん!なんなら、暗号作った本人と話してみる?』
「え?」


携帯にデータを表示させて、あたしに最後のツメをやろうとしたお兄ちゃんを涙が滲む程に笑い飛ばした。
あたしは携帯を取り出すと電話をかけて、相手が出たところでスピーカーボタンを押して、お兄ちゃんにも聞こえるようにした。


〈Hi!なまえ。どうしたの?〉
『マリア、ここは日本なんだから、面倒くさがらずに日本語で喋りなって前にも言ったでしょ?』
「ごめんごめん。日本で英語通じる子がこんなにいないとは思ってなかったからさ、なまえと話す時はついつい英語になっちゃうんだって!許してよ」
『まぁ、いいんだけどさ。マリアのもう一つの母国語だもんね』
「ありがとう!それで?どうしたの?」
『マリアがあたしの為に作ってくれてた暗号があったでしょ?お兄ちゃんがあれが待ち合わせの暗号なんじゃないかってとんちんかんな推理しちゃってさー』
「なっ!なまえっ!オメーなぁ!」
「嘘!?お兄さんそこにいるの!?平成のホームズが?!」
『いるよー?その推理が間違ってるって本人に言ってやってよ』
「あのー…新一さんにはすっごく言いにくいんですけどぉ…解けるかどうか分からない暗号で待ち合わせなんかしちゃったら、あたし、なまえが解けなかった時は待ちぼうけどころか連絡のないドタキャンされちゃうんですけど…?」
『だよねー。普通待ち合わせを暗号で書こうなんて思う人なんかいないよねー。もうさ、マリアが作る暗号がどれだけ難しいかお兄ちゃんに解いてもらったら?』
「えっ!?平成のホームズに、あたしなんかが作った暗号を解いてもらうの!?それって時間のムダじゃない?」
『お兄ちゃん、俺に解けない暗号なんかないって豪語するくらいだから、大丈夫だよ!ね?お兄ちゃん?』
「お、おぅ…」
「ねぇ、なまえ!それなら、あたしとーっておきの暗号作って持って行くから、一目でいいから新一さんに会わせてくれない!?」
『マリア、ホームズフリークでお兄ちゃんの大ファンなの。ダメかな?』
「別に構わねぇ、けど…」
「ホントですか!?やったー!!みんなに自慢出来るわ!なまえ、愛してるっ!!」
『それで、いつ来るの?』
「えーっとぉ…なまえ用の新しい暗号はもう作ってあるんだけど、新一さんの為にとっておきの暗号作んなきゃいけないでしょ?うーん…次の金曜日でどうかしら!?」
『だって。お兄ちゃん、金曜日大丈夫?』
「お、おぅ」
『じゃあ、金曜日はマリアが来るまでは事件があっても行かないでね?マリア!お兄ちゃんいいってさ!』
「ホントに!?もう楽しみできっと眠れないわっ!早速暗号作らなくっちゃ!それじゃあ、なまえ。また金曜日にね!」
『またね』


電話を切った後、お兄ちゃんを見ると呆然としてた。
自分の推理が間違ってたことにもだろうけど、きっとあの超がつく程のハイテンションについていけなかったんだろうね。
計画通りだ。


『誤解はとけたかな?』
「お、おぅ。なん、か、賑やかな子、だな?」
『マリアはハーフでね、12歳までアメリカで育ったから、あっちでのテンションが抜けないんだって言ってたよ?』
「へぇー」
『ところでさ、お兄ちゃん』
「ん?」
『何であたしの部屋に勝手に入ってくれちゃったのかな?』
「そ、それは!」
『挙句に結構いろんなとこ探ってくれちゃってんだよね?あのノート見つけちゃうくらいにはさ』
「…」


形成逆転!
お兄ちゃんが狼狽えてる!
探偵モードからいつものお兄ちゃんに戻った!!


「たった2日間、俺が居ねぇ間に誰か家に入れてたみてぇだし、前にしょっちゅう夜に出掛けてただろ?だから、相手が男だったら…と、思って、だな。何か証拠でもねぇかと…」
『それだけで勝手に妹の部屋に入っていい理由になるんだ?』
「俺は!兄貴としてオメーの心配をっ!」
『だから、そんなムダな心配してないで、事件現場行って頭使いなっていつも言ってんじゃん!』
「…」
『怪盗さんだって最近バッタリ姿現してないんでしょ?あたし、家に軟禁されてる必要なくない?』
「軟禁ってオメーなぁ…」
『だってそうじゃんか!お兄ちゃんとずっと一緒なのは別にいいよ?だけど、お兄ちゃんいない時は家から一歩も出るなって、今日なんてお兄ちゃん迎えに来たの5時だよ!?今時小学生だって遊んでるよ!』
「…悪かった。やり過ぎてたのは認めるよ」
『明日からはあたし自由にさせてもらうからね?』


お兄ちゃんは渋々だったけど、それでも頷いてくれた。

やった!
ホントにお兄ちゃんに勝てた!
怪盗さん様々だねっ!!

怪盗さんがあたしの部屋に入って来たあの時、処分は頼んだけど


『でも、お兄ちゃんがこんな物証放置してるなんて、絶対携帯かデジカメでデータ残してるって!どうしよう…』
「なまえ、落ち着けって。オメーの携帯貸せよ」
『え?何するつもりなのさ?』
「いいから!時間がねぇんだろ?」
『はい』
「オメー、演技出来るか?」
『え?うん。お母さんに仕込まれたから、そこらの女優よりは出来ると思うよ?』
「よしっ!じゃあ、先ずは兄ちゃんが、切札のデータを出すまではとことんシラを切り通せ」
『え?うん』
「で、兄ちゃんがオメーに最後の追い込みをかけそうになったら、ここに電話して来い」
『海藤マリア?誰、これ?』
「俺の携帯の番号」
『は?』
「俺が兄ちゃんの苦手なタイプの女演じて、なまえが自分のペースにかかったって調子に乗った兄ちゃんの戦意喪失させてやっから!」
『怪盗さん、そんなことまで出来るの?』
「任せとけって!じゃ、なまえ上手く演れよ!」


って、窓から飛び降りたんだよね。
怪盗さん、自信満々だったけど、まさかこんなに上手くいくとは思わなかったな。


『もしもし?怪盗さん?』
「だから、怪盗さんは辞めろって!どうだ?上手く行ったか?」
『バッチリだよ!ついでに、あたしの門限も過保護強化月間も取消し出来たんだよ!』
「スゲーじゃん!オメー、ホントに演技出来たんだな。電話でも俺、感心してたんだぜ?」
『久しぶりだったから、正直ちょっと不安だったんだけどさー。子どもの頃に覚えたことは忘れないって、あれホントなんだね』
「まぁ、とりあえず囚われのお姫様は終了したわけだ?」
『あたしはお姫様って柄じゃないよ。でも、これでまたいつでも怪盗さんに会えるね』
「なまえ、オメーわざとやってんだろ?ソレ」
『電話じゃ姿見えないんだから怪盗さんでいいじゃん』
「口調で分かるだろーがっ!まぁ、それはともかく、完璧に疑い晴らす為に金曜日にもう一芝居打つんだけどな。オメーは俺に合わせろよ?」
『分かってるって!あ、お兄ちゃんがお風呂から帰って来そうだから、電話切るね』
「おー。また金曜日にな」


ホントに打ち合わせも脚本も何にもない即興劇だったのに、上手くいくもんなんだね。
まぁ、お母さんは日常で必要な時にはいつでも使える様にって教えてくれたんだから、正しい使い方だよね?



金曜日、なんかワクワクして来ちゃったよ!


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