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 19

何だってお兄ちゃんがこんなもん見つけちゃったんだ?
あたしの部屋の本棚になんて用はないはずなのに。

……ヤバイって!
これを見つけたってことは、今日怪盗さんから貰ったラブレター持ってるの見つかるわけにはいかないじゃん!
あれ、毎回ご丁寧にキッドマーク入ってるんだから!!


『ええーっと…次の待ち合わせは…』


必死に頭を捻って走り書きしてると、カタンと窓が開く音がした。
同じ暗号でも切羽詰まってる時は、やっぱり書いた方が早く解けるね!


「なまえ、何そんなに慌ててんだ?」
『怪盗さん!いいとこに来てくれたじゃん!!ナイスタイミングだよ!これ持って帰って処分して!』
「は?」
『早くっ!お兄ちゃんに最初の頃に怪盗さんから貰ったラブレター解いてるのに使ってたこのノート見つかっちゃったんだって!!』
「…マジで?」


顔がひくついてる怪盗さんを見て、あたしは真剣に頷いた。
怪盗さんも軽く冷や汗をかいてる。
事態はそれだけ深刻なのだ。


『隠してたのに、何でか分かんないけど、お兄ちゃんに見つけられちゃったんだよ!今日貰った暗号も解いたから、お兄ちゃんが帰ってくる前に両方持って帰って処分して!』
「わ、分かった」
『怪盗さんのラブレター自体は毎回処分してるから、怪盗さんからだってとこまではバレてないと思うけど…』
「なまえー。ただいまー」
『怪盗さん、あたしが時間稼ぎするから、バレない様に帰ってね』


一方的に言うだけ言って、怪盗さんが窓から飛び降りるのを確認すると、あたしもドアを開けた。


『お兄ちゃん、お帰りー。今日は早かったね?』
「俺が事件解決してんだ。当たり前だろ?」
『…毎回思うんだけどさ、その自信はどっから出て来きてるの?』


あたしはいつもと同じ様に呆れながら階段を下りて行った。

女のコは誰でも女優なんだって言ってたのはお母さんだ。
サッカーやってたお兄ちゃんと違って、あたしは小さい頃からお母さんに演技のあれこれを叩き込まれてる。
物証がないなら大丈夫だ!


「とりあえず腹減ったから飯にしようぜ?」
『出来てるよ?お兄ちゃん、お腹空いてた方が頭の回転がいいんだ!とかって、いつも言ってるからお腹空かせて帰って来るだろうなーって思ってさ』
「さすが俺の妹!俺のことよく分かってんじゃねぇか!」


お兄ちゃんのハグ自体は珍しくないけど、同時にあたしを褒めるこれはただの前兆に過ぎないことを知ってる。

ご飯の時か、ご飯の後の珈琲の時間帯が一番危険だ。


「ところで、さ」
『うん?』


ほら来た。
さぁ、何て続くんだ?


「この前、俺が留守にしてた間、誰か来てたのか?」
『蘭と園子が学校帰りに遊びに来たよ?それがどうかしたの?』
「いや?キッチンのゴミ箱にいつもはねぇはずのシュガースティックが捨ててあったから、誰が来たんだろうって思ってさ」


これはホント。
万が一、があったら困るから、蘭と園子を呼んだんだ。
一度捨てたゴミを拾うのはイヤだったから、ゴミ箱の中身の数を調整して、余分は別途で処分した。


「へぇ。あいつらが来てたのか」
『最近あたしずっとお兄ちゃんと帰ってるじゃん?だから、蘭たちとゆっくりお喋りしたかったんだよ。学校帰りに家に寄ってもらう分には大丈夫でしょ?あたしが家を出てるわけじゃないんだから』
「そうだな?」


お兄ちゃんの瞳が段々と鋭くなって、人の心を見透かすような探偵の瞳になっていってる。
これまではただの前触れだったってわけだ。


「オメー、さっき自分の部屋から出てきてたよな?」
『え?そうだよ。ご飯作ってから、明日の予習しようと思ってさ』
「じゃあ、もちろん机は使ってたんだよな?」
『当たり前じゃん。さっきからお兄ちゃんオカシイよ?』
「あのノートは何だ?」
『何のこと?』
「オメーの部屋の本棚ん中に隠してあったノートだよ。ご丁寧にわざわざ同じ高さの本と一緒に並べて見つけにくくしてあったヤツ。俺がオメーの机の上に置いてただろ?」
『え?置いてあったのは昔お兄ちゃんと暗号を作りっこしてた時のノートだよ?懐かしいーって眺めてたから、予習に手がつかなかったんだよねー』
「白々しい嘘ついてんじゃねぇよ!あの頃の俺らがあんな小難しい暗号作れっかよっ!!」
『お兄ちゃん、さっきから何のこと言ってるの?』


あたしとしては、何でお兄ちゃんがあたしの部屋に無断で入った挙句、本棚のそのノートを見つけるに至ったのか、その過程の方がよっぽど聞きたいんだけどね?


「第一、あのノートは最近発売されたヤツだぜ?昔の古びたノートじゃなかっただろ?」


お兄ちゃんが一度感情的になったのに、冷静に戻った。

ここからが正念場だ。
お兄ちゃんのことだ。一度見たものは忘れない。
つまりは内容を覚えてるはずなんだ。


「どのページも暗号の元ネタも解答も書いてなかったけどな、それでも解きかけのもんみたら大体は想像つくんだぜ?」


そう、あたしは怪盗さんから貰った文章も、それを解いた答えも書いてない。
ついでに言うなら、ただ頭を整理する為のメモ書きで使ってただけだから、どこからどこまでが一つの暗号なのかも分からなければ、文章の順番もめちゃくちゃだ。
それでどう出る?お兄ちゃん。


「あれ、オメーが夜にちょくちょく出掛けてたヤツに関係あるんじゃねぇのかよ?」
『何のことかな?』
「とぼけてんじゃねぇよ。オメーが友だちから暗号貰ったってそれを解いた次の日に園子の家に泊まりに行ってから、週1くらいのペースでどっかに出掛けてただろ?」
『あたし、そんなことしてないよ?』


さすが、平成のホームズ。
たったあれだけの走り書きでも、あたしが出掛けてたことに繋げられたのか。
あたし、出掛ける度にいろいろと工作してたんだけどな。
やっぱり、お兄ちゃんの目を欺くには足りなかったか。


「じゃあ、あの病院行った日のことはどう説明する気だ?」
『え?』
「あの時の調書を見せて貰ったんだよ。ちゃんとオメーが救急車呼んだ場所まで書いてあったぜ?オメー、何であんなとこに行ってたんだ?」
『あれはたまたまだよ。最近ウエストがヤバイなぁって夜の散歩してたら、助けてくれっ!って声が聞こえたんだもん。何があったんだろうって思うじゃん?お兄ちゃんだって、そんな声が聞こえたらそっちに走って行くでしょ?』


あれは通り魔の犯行って話に落ち着いたんだ。
もちろん犯人なんか捕まってるはずがないんだけどね。
被害者が供述したモンタージュが既にデタラメなんだから。
でも、これでちゃんと筋は通ってるよ?お兄ちゃん。


「ドコまでもシラを切り通すつもりなんだな?」
「シラを切るも何も…お兄ちゃんが何を言いたいのかが分かんないよ。探偵なんだったら、ちゃんと証拠を見せて、分かりやすく説明してよね?」
「オメーのことだから、物証であるあのノートはもう処分してるんだろうな。ずっと家ん中にいたオメーがどうやってそれをやったのかはさっぱりわからねぇが」


勝った、そう思ったのも束の間だった。


「残念ながら、写メでバッチリと残ってんだよ。俺の携帯のメモリにあのノートの内容がな」


お兄ちゃんの勝ち誇った様な笑みが、初めて残酷な笑顔に見えた。


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