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 16

アイスを食べて、買い物だけして家に帰るとお兄ちゃんがリビングで小説を読んでいた。
いつも不思議に思うんだけど、推理小説ってそんなに頻繁に発売されてるのかな?


『ただいまー』
「お。ちゃんと約束通りに帰って来たな」
『お兄ちゃん怒らせると怖いからね。今日はミートスパでいい?トマトが安かったんだよ』
「おー」


キッチンでご飯を作りながら、あの招待状をどうやって解くかを考えていた。
たぶん、前みたいに書斎に籠るのは危険だ。
しばらく期間が開いてたとはいえ、そろそろお兄ちゃんにも感付かれる。
これから毎週となれば尚更だ。
だったら、部屋で解きながら、必要な資料がある時だけ取りに行くしかないか…。


「なんか腹の空く匂いしてんだけど、まだ出来ねぇのか?」
『もうすぐ出来るよ』


出来上がったサラダとミートスパをテーブルに並べてお兄ちゃんとご飯を食べる。
いつもお兄ちゃんはあたしが作る料理に文句は言わない。
例え手抜きをしてたとしても、だ。
まぁ、お兄ちゃんは自分では朝食に出来るような簡単なモノしか作れないんだから、文句を言ってあたしが作らないって言われると困るってだけかもしれないけどさ。


『お兄ちゃん、そろそろ事件現場行きたくて禁断症状とか出てるんじゃない?』
「バーロー。そんな手に乗るかよ。それに、」
『それに?』
「探偵やってんのは快感だけどな、俺は妹のオメーより大事なもんはねぇんだよ」
『…蘭がいるじゃん』
「あ、あいつはただの幼なじみで、そ、そんなんじゃねーよっ!」


顔赤くしてドモって言われても説得力ないよ?
ホント、お兄ちゃんに冷静沈着って言葉は似合わない。
平成のホームズとか言われてるけど、推理力だけじゃん。
後、ムダな行動力。
事件と聞いたら飛び出して、ドコへでも駆け付けて行っちゃうんだから。

でも、そんなお兄ちゃんがもう1ヶ月以上、事件現場へ行ってない。
これはもう諦めて怪盗さんと昼間に会うしかないかな。
どうするかはお兄ちゃんの行動見て考えよう。
その内、痺れを切らして現場に飛び出して行くかもしれないしね。
まぁ、その時怪盗さんが予告出してくれなきゃ意味がないんだけど、そう都合良くはいかないだろうしなぁ。


『…怪盗さん、これじゃただのデートの待ち合わせじゃん』


今回のは久しぶりのラブレターだったせいか、考え事しながらでも解けた、けどさ。


【来週の水曜日、米花駅前の時計台で学校帰りに待ち合わせしましょう】


って、ただのデートの待ち合わせだよね?
え?違うのかな?
彼氏なんて今まで出来たことないから知らないけどさ。


『お兄ちゃん、今日は園子と約束があるから先に帰ってていいよ』
「暗くなる前に帰って来いよ?」
『はいはい。分かってるって』


アリバイ作りはいつも通り園子にお願いした。
園子はデートだって言ったら二つ返事で引き受けてくれた。
ホント、こういう時は頼りになるわ。


「よう!待ったか?」
『10分くらいかな?でも、意外と早かったじゃん。かいとーさん』
「変な呼び方すんなよな。俺の名前覚えてんだろ?」
『黒羽快斗くん、これからドコへ行くつもりなのさ?』
「とりあえず近くのカフェ行こうぜ?」


前に調べたんだけど、昼間の怪盗さんが着てる制服の校章は江古田高校のモノだった。
ここから3駅分離れてる。
それでよくこんなに早く来れたもんだと素直に感心してた。


『黒羽快斗くんって甘いモノ好きなの?』
「イチイチフルネームで呼ばなくていいって。オメーだってそれ甘ぇヤツだろうが」


あたしの前にあるのはアイスショコラ。
生クリームのトッピング付きだ。
けど、怪盗さんの前にあるのはチョコパフェ。しかも、ジャンボサイズ。
怪盗さん、絶対それが食べたくてココに来たな。


『黒羽快斗くんがあたしのことオメーってずっと呼んでるからじゃん』
「じゃあ、俺のことは快斗って呼べよ。俺もオメーのことなまえって呼ぶから」
『ふぁーい』


生クリームを掬って口に運びながら、スゴいペースで減って往く怪盗さんのチョコパフェを眺めていた。
ホントに怪盗さんは甘いモノが好きらしい。
お兄ちゃんだったら見ただけで絶対胸焼け起こして顔しかめると思う。


「それで?今回の質問は何だよ?前に一回質問抜けてっから、今日は2つ答えてやんぜ?」
『んじゃ、質問タイム突入!1つ目、快斗の探し物はいくつあるのさ?』
「は?」


人差し指を立てて、怪盗さんの前に突き出した。
怪盗さんは目を丸くしてる。
やっぱり昼間の怪盗さんは表情豊かでキライじゃないかもしれない。


『今はまだ捕まるわけにはいかない。快斗はあたしと初めて会った時からよくそれを言ってるけど、あれって探し物を物騒な人より先に探したいって意味だよね?』
「…」
『前に会った物騒な人たちの反応を見る限り、そんなに量があるとも思えない。だから、とりあえず聞いておこうと思ってさ』
「…一つだよ」
『ふーん。だから物騒な人たちも躍起になって快斗を止めてるってわけか』


世界に一つだけしかない宝石の中に隠された宝石、ねぇ。
レアとか言うレベルじゃないな。
でも、それなら2つ目の質問は決まってる。


『質問2つ目。ソレってどんな意味があるの?』
「は?」
『宝石の中に隠された宝石…それだけでもレアだろうけど、月に翳したら姿を現すってだけじゃないんでしょ?物騒な人たちも快斗も躍起になって先にソレを見つけようとしてる。ソレは何か理由があるって言ってるも同じだよ。ソレって何?』
「…」
『前にも言ったけど、答えないのは認めない。前みたいにまた今度なんて言うのも、今はお兄ちゃんの監視が厳しいあたしには不可能。何が何でも今答えてもらうよ?』
「…わーったよ。降参だ」


怪盗さんは散々悩んだ挙句に両手を上げて降参のポーズをとった。
どうせ全部は答えてくれないんだろうけど、手がかりだけでも知りたい。
お兄ちゃんがよく言ってる、探偵としての好奇心なんかじゃない。
怪盗さんが物騒な人たちに命を狙われてまでソレを探してる理由がどうしても理解出来なかったからだ。


「俺も最初から全て知ってた訳じゃねーから、ホントか嘘かは知らねぇが、オメーが言う物騒なヤツらがこう言ってたんだ。ソレには不思議な力がある、ってな」
『不思議な力、ねぇ。つまり、物騒な人たちはその不思議な力が欲しくて躍起になってて、快斗はそれを阻止しようとしてるって言ったところかな』
「…」
『あぁ、これはただの独り言だから気にしなくていいよ』


氷が溶け始めて、ちょっと薄くなったアイスショコラを口に含む。
なるほどねぇ。そういう裏があったってわけか。
それなら怪盗さんの行動にもこの前遭遇した物騒な人たちの反応にも説明がつく。
やっと一つ縺れた糸がほどけたな。


「これ、今回のラブレター。ちゃんと前回よりは難易度上げてあるぜ?」
『そりゃ、どうも。前のはラブレターが久しぶりだったあたしの為の手慣らしだったってわけだ』
「オメーはなかなか鋭いからな。こんくれーならすぐ解けるって」
『黒羽快斗くんに誉めて貰えるなんて光栄だわ、とか言わなきゃいけなかったりする?』
「んな必要ねーよ」


じゃあ、また来週なってやっぱりいつ空にしたのか分からないパフェの器だけ残して怪盗さんは去って行った。
レシートは怪盗さんが持って行っちゃったから、あたしは残りのアイスショコラを飲みながら、のんびりしてることにした。
次の質問はもう考えてあるんだよね。
来週が楽しみだと鞄にしまったラブレターを思い浮かべて、あたしは一人笑みを浮かべていた。


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