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あれから約一ヶ月。
お兄ちゃんはもう怪盗さんの話をしなかった。
変わりに目暮警部の応援にも行かなくなった。
怪盗さんからの予告状がいつくるか分からないからって、あたしを見張ってるつもりらしい。
…お兄ちゃんにはあたしの考えなんてバレバレ、か。
『お兄ちゃん、学校帰りにアイス食べて帰っていい?』
「暗くなる前にぜってー帰って来いよ?」
『分かってるって』
お兄ちゃんとずっと一緒にいるのが苦痛って訳じゃない。
二人きりの兄妹だし、二人でいるのが当たり前だったから。
でも、これからどうするかちょっと一人で考えたかった。
『チョコミント下さい』
前に蘭と園子に連れて行ってもらったアイスクリーム屋さんで、大好きなチョコミントを食べながら、これからのことを考えていた。
怪盗さんは招待状は出すって言ったのに、その招待状も来ない。
前回のことで怪盗さんにも見放されたかな?
「ここ、座ってもいいか?」
『え?』
聞き覚えのある声に顔を上げると高校生の怪盗さんが立っていた。
『いいよ』
「サンキュー」
怪盗さんはチョコレートアイスをダブルで頼んでいた。
チョコレートアイス好きなのかな?
「オメー最近ずっと兄貴と居たな」
どうして知ってるんだ、なんてこの怪盗さんには愚問だから聞かなかった。
『前回のでこっぴどく怒られちゃったからね』
「おかげで招待状も出せなかったんだけど」
『出すつもりではいたんだ?』
「約束しただろ?」
怪盗さんがアイスを食べながら悪戯に笑う。
高校生の怪盗さんの表情は嫌いじゃないかもしれない。
『でも、監視が厳しくて、夜に出歩けそうにないんだよね』
「じゃあ昼間に会えばいいじゃん」
『え?』
「今みてーに学校帰りとかなら大丈夫なんだろ?」
それは怪盗さんじゃなくて高校生の怪盗さんに会うって意味なのかな?
『でもそれじゃ、あたしの特典なくなるんじゃないの?』
「待ち合わせ場所、ラブレターで作ってやっから大丈夫だって」
どうして怪盗さんがあたしに合わせたこんな提案をしてくれるのかが分かんない。
どういうつもりなんだろう?
「この前はオメーに助けてもらったからな」
『そのお礼?』
「貸しはちゃんと返す主義なんだよ」
どこか拗ねたように言う怪盗さんに思わず笑ってしまった。
睨まれたから、すぐ笑うの辞めたけど。
『それで?ラブレターはいつもらえるのかな?』
「ほらよ」
『作って来てたんだ?』
テーブルに出された封筒に少しビックリした。
今昼間会おうって話したばっかなのに。
「ホントは家まで持って行こうと思ってたんだけどな」
『うん?』
「オメーがここに入るのが見えたからここで渡すことにした」
『うちに来たら大変だよ。今お兄ちゃんピリピリしてるから』
封筒を鞄にしまいながら、そう言うと怪盗さんはケタケタと楽しそうに笑っていた。
「まぁ、これでオメーが夜出歩くことはなくなんだろ?俺は兄ちゃんに感謝するね」
『あたしを見くびっちゃダメだよ。どうやってお兄ちゃんの監視から抜け出すか、今考えてるんだから』
「オメーこの前あんなことがあったばっかだろーが!」
『残念だったね、黒羽快斗くん。あたし諦めが悪いんだよ』
「オメーなぁ…」
『お説教ならいらないよ。お兄ちゃんだけでもうたくさんだもん』
はぁって重たいため息をついた怪盗さんは、じゃあまたなって先に出て行ってしまった。
…いつの間にアイス全部食べたんだろう?
あたしは少し溶け出した残りのアイスを口に入れながら、昼間に怪盗さんに会うのも悪くないかな、なんて考えていた。
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