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 12

家に帰ったあたしを待っていたのは、静かに怒っていたお兄ちゃんだった。
でも、軽くキレちゃってるあたしには怖くも何ともない。


「なまえ、あの置き手紙は何だよ?」
『ちゃんと行き先書いてたじゃんか』
「何でそれがわざわざ暗号で書かれてたのかって聞いてんだよ!」
『お兄ちゃんに解けない暗号なんかないんでしょ?』


お兄ちゃんの手からあたしが残した置き手紙を奪って粉々に破り捨てた。
元々解けないように作った暗号、つまり答えがないのだ。
いくらお兄ちゃんでも答えがないものを解けるはずがない。
お兄ちゃんをムシして自分の部屋へと帰ろうとしたら、お兄ちゃんに肩を掴まれた。


「なまえ!」
『何?あたし今すっごく機嫌悪いんだけど』
「オメーなぁ、最近どうしちまったんだよ?」
『お説教なら明日にして。お兄ちゃんに当たりたくないから。オヤスミ』
「…」


心配してくれてるお兄ちゃんを邪険にするのは気が引けたけど、今はそれどころじゃなかった。
怪盗さんへの怒りがまだ収まってない。
部屋に閉じ籠ったあたしは、特に何をするでもなく、ベッドの上で膝を抱えていた。


「なまえ、入るぞ」
『何?』
「朝飯作ったから食え。オメー昨日から何も食ってねぇだろ?」
『要らない』
「…。学校は?」
『今日は休む』
「分かった。じゃあテーブルに置いとくから、腹減った時でいいから食えよ?」


お兄ちゃんは何も聞かずに部屋を出た。
いつぶりだろう。
お兄ちゃんとこんなに素っ気ない会話をしたのは。
でも、どうしても気分が戻らない。
死ぬかもしれないケガをわざとした怪盗さんへの怒りがまだ収まらない。
昨日から寝てないというのに、眠気すら来ない。

どれくらいの時間そうしていたか分からないけど、窓に何か当たる音がして意識をそちらに向けると高校生の怪盗さんがそこに居た。
昨日の今日で何の用があるというんだろう。


「開けてくれねぇか?」
『前みたいに自分で開けて入ってくれば?』
「オメーが怒ってんのが分かってるから、せめて開けて欲しいんだよ」


仕方なくベッドから起きて、窓を開けに行った。
真っ昼間に窓にへばりついてるとか見つかったら通報されても仕方ないと思うんだけど。
第一怒ってるのが分かってるのに、何しに来たのかが分からない。


「悪かった」


怪盗さんがあたしの部屋に入ってきた第一声は謝罪の言葉だった。


『何が?』
「オメーがそんなに怒るとは思わなかったんだよ」
『それで?』
「許してもらいに来た」


この怪盗さん、やっぱり人をバカにしてない?
許してもらいに来たって何?
謝ったら許してもらえるとでも思ってんの?


「直ぐに許して貰えるとは思ってねぇよ」
『…』
「今日は二度とあんなマネしねぇって約束しに来たんだ」
『…』
「ゲームも招待状は出すけど、オメーが許してくれるまで来るも来ねぇもオメーの自由でいい」
『あたし次は怪盗さん捕まえる気で行くよ?』
「分かってる」
『じゃあ現場に行ってもいいんだね?』
「オメーを巻き込みたくねぇから、出来れば来て欲しくねぇけど…それは諦めた」
『そう』
「でも、オメーは必ず俺が守っから!」


怪盗さんが真剣な瞳で…どこまでも真っ直ぐな澄んだ瞳であたしを見た。
お兄ちゃんと似た、人の心まで見透かすような鋭い瞳。
唯一違うのは、探偵と怪盗の違いか、何処までも似てるのに、裏表のような違和感があることだ。


『分かった』
「ん?」
『まだ許せないし、怒ってるけど、』
「おう…」
『次やったらホントに二度と許さないから』
「おう!」


怪盗さんの時とは明らかに違う人懐っこい柔らかい笑みに、ホントに同一人物かと疑いたくなる。
怪盗さんの時には張り付けた仮面のような笑みしかしないクセに。

時計を見ると、ちょうどお昼な時間帯だった。
昨日の夕飯から抜いたままだから、お腹が空いたような気もする。


『怪盗さん、学校は?』
「サボって来た」
『あたしと一緒、か。何か食べる?食べるならお昼作るけど』
「…」


目を丸くして驚いてる怪盗さんに、未だに不機嫌な声のまま問いかけた。


『何?』
「オメー怒ってんじゃねぇのかよ?」
『怒ってるってさっき言ったばっかでしょ』
「でも飯作るって…」
『要らないんならいいよ。バイバイ』
「待てよ!食う!食うから!」
『そう?ご飯出来たら呼びに来るからここに居てよね』
「分かった」
『リクエストある?』
「オムライスが食いてぇ、かな」
『分かった』


それからキッチンに降りて、お兄ちゃんが作ってくれた朝ごはんは冷蔵庫にしまって、オムライスを二人分作った。

そして、追う側と追われる側、会話もろくにしない不思議なお昼を食べた。


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