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 11

怪盗さんがいつの間にか退院した後、しばらく待ってみたけど連絡は来なかった。
あれだけのケガをしたんだから当たり前かもしれない。
っていうか、あれだけ深手を負って、翌日退院してる方があり得ないと思うんだけど。


「なまえ、」
『ん?なぁに?お兄ちゃん』
「この前のことなんだけどな」


ヤバイ。お兄ちゃんになんか悟られるようなことあたししたかな?


「新一ー!ちょっといい?」
「おう。今行く!」


ふぅ。
蘭がナイスタイミングでお兄ちゃんを遠ざけてくれた。
まぁ、一緒に暮らしてるんだから、家に帰ったら質問責めに合うかもしれないけど。

お兄ちゃんと一緒に帰るのが気まずかったあたしは、一人で先に家へと向かっていた。
お兄ちゃんが言いたかったことって何だろう?


「すみませーん」
『え?』


振り向くと黒羽快斗がそこに居た。
怪盗さん、昼間から堂々といい度胸してるなぁ。


「これ、落とし物ですよ」
『わざわざありがとう』
「それじゃあ」


一枚の封筒を渡して居なくなった怪盗さん。
中身を開けてみると今晩逢いたいという内容が書かれていた。
何の用があるのか、だいたい想像がつくけど、行かないわけにはいかない。

家に帰ると着替えて、お兄ちゃんへの置き手紙を残して直ぐに家を出た。
お兄ちゃんに捕まって、約束の時間に遅れるわけにはイカナイんだ。
外でしばらくブラブラして時間を潰したあたしは、約束の場所へと向かっていた。

今夜で怪盗さんとのゲームも終わるのかもしれない。
でも、あたしには秘密兵器がある。
勝算がないわけではない。


「今晩は。なまえ嬢」
『今晩は、怪盗さん』
「今宵は月がキレイですね。まるで私たちの逢い引きを祝福しているようだ」


怪盗さんがこんな余計なことを言うのは珍しい。
やっぱり今日はゲーム終了の言葉を言われるの、かな。


『ねぇ、怪盗さん。ケガはもう大丈夫なの?』
「ええ。なまえ嬢の手当のおかげで完治しました」


嘘だ。
あんなケガがこんな短期間に直る訳がない。
それは解ってるけど、あたしもあえて何も聞かなかった。


『怪盗さん、今日の用件を聞きたいんだけど』
「この前の件で、私の犯行現場付近が危険なことは分かっていただけたと思います」
『…』
「ですから、私の犯行現場付近に近寄らないと約束をしていただきたく、今宵は参りました」


それを聞いて、あたしは自分の予想が違っていたことを知った。
と、同時にピンと来た。
だけど、それはあたしの怒りスイッチを押すモノだった。


『この前のケガ、わざとだね?』
「…」
『あたしに危険を知らせる為に、わざと傷を負ったんでしょ?』
「…」


怪盗さんは何も答えない。
答えないと言うことが答えだった。
叫び出すのをガマンしていたあたしは、もうそれを止められそうにもない。


『ふざけんなっ!』
「なまえ嬢、」
『危険だって言うのはハジメから聞いてたじゃんか!何ムダにケガなんかしてんのさ!?』
「…」
『あたしは怪盗さんとの約束を守ってた。次いでに言うなら、ゲームの間、現場に行くことだってしなかった。その仕打ちがこれなわけ?』
「…」
『怪盗さんがそのつもりなら、あたしは次から現場に行くよ』
「ですから、それはっ!」
『今の怪盗さんにあたしに何か指図する権利があるわけ?』
「…っ」
『あたしはゲームのルールを守ってた。現場に行かないってルールなんかなかったのにゲームだけに参加してた。でも怪盗さんがそのつもりなら、あたしは次から怪盗さんの犯行現場に行く』
「…」
『それじゃあ、バイバイ。ゲーム続行は怪盗さんの好きにしていいよ』


怪盗さんが苦悩してるのは雰囲気で分かってた。
でも今の怪盗さんにあたしを止める権利なんかない。
あたしを現場から遠ざける為だけにあんな深手の傷をわざと負うなんてバカげてる。
怪盗さんがそんな人だとは思わなかった。
はっきり言って幻滅したね。

あたしはそれから一度も振り向くことなく、家へと帰った。


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