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 10

怪盗さんとの約束の日、あたしのイライラは頂点に達していた。


『今まで時間通りに来てたのに、1時間も遅れるってどういうことなのさ!?』


そう、約束の場所で律義に待っているのに、いつまで待っても怪盗さんが来ないのだ。
何で?前回中森警部呼んだから?
でも助っ人呼ばないなんて約束もしてないし、第一怪盗さんは余裕の笑みを残して帰っていった。
それは考えられない。
一体どうしたっていうんだろう。


『あーあ。待つの疲れちゃったよ』


立ってるのに疲れたあたしは、その場に座り込んだ。
怪盗さんなら、来れなくなったならそう連絡してくれると思うんだけど、あたしの過大評価だったのかな。


「なまえ、嬢。お待たせしてしまって、申し訳ありません」


約束の時間から遅れること1時間半。
やっと来た怪盗さんはどこかいつもと様子がおかしかった。
その原因はすぐに分かった。
白いスーツが真っ赤に染まってるのだ。
顔も冷や汗が浮かんでいる。
これは病院に連れて行かないとヤバイと素人目にも分かった。


『怪盗さん、誰か別の人に変装出来る?』
「えっ?」
『その傷じゃ、病院行った方がいい。誰でもいいから早く変装して』


次の瞬間には、同い年くらいの男の子が目の前にいた。
今までの衣装はどうしたんだろうって思ったんだけど、今はそれどころじゃない。
応急手当をしながら、質問をした。


『今変装してるその人の名前は?』
「黒羽快斗」
『年齢は?』
「オメーと同じ17だよ」
『分かった』


必要なことだけ聞いて、あたしは救急車を呼んだ。
あたしの応急手当なんてたかがしれてる。
早く本格的な手当してもらわないと!


「今回の質問は、いいのかよ?」
『今はそれどころじゃないでしょ?』
「そう、だな」
『撃たれたんだね?』
「…」
『答えたくないならそれでいいよ。今日は仕事帰りに来る予定だったんだ?』
「ああ、そのつもりだったんだけどな…」
「それだけ聞ければ十分だよ。ほら、もうすぐ救急車も来る」


遠くから聞こえるサイレンに少しだけ安堵した。
致命傷かどうかなんてあたしには分からない。
ただ出血の量が半端じゃなかった。
あたしは怪盗さんを助けるのに、何をすればいいかを必死に考えていた。


「どうして俺を助けるんだ?」
『人を助けるのに論理的な思考は必要ないんだよ』
「…」
『たまたま、事件に巻き込まれたキミをあたしが発見した。それでいいよね?』
「ああ…」


どうやら言葉を発するのもしんどいらしい。
これ以上言葉を重ねることなく、あたしたちは救急車に乗り込んだ。


「ちなみに事件というのは?」
『あたしは知りません。彼が倒れてるのを見つけただけなので』
「そうですか。彼の親族には我々が連絡しますので」
『よろしくお願いします』


手術室に入った怪盗さんに気を取られながらも、あたしにも後から来た刑事さんの事情聴取やら何やらで時間を取られてしまった。
お兄ちゃんに連絡しないと、と一段落したところで外に出て携帯を取り出したら、ちょうどお兄ちゃんから連絡が来たところだった。


「なまえ!オメー今何処にいるんだよ!?」
『病院』
「ケガでもしたのか!?」
『じゃなくて。ケガした人見つけたから付き添いで来たんだよ』
「そうか…で、どこの病院だ?これから迎えに行く」
『えっとね…』


それから二言三言話して電話を切った。
こういう時は双子で良かったと思う。
話したいことを話さなくてもお兄ちゃんが汲んでくれるから。

手術が終わったらしい怪盗さんの病室へと行くと、苦渋の表情をしていた。


「これで貸し一つだな」
『そんなこと考えてないで、今はゆっくり休んでなよ。誰かに連絡した方がいい?』
「それは看護婦さんがやってくれるらしい」
『そう。じゃああたしお兄ちゃんが迎えに来たら今日は帰るから』
「悪ぃな」
『いいよ、別に。またゲーム開始するんなら、ちゃんと知らせに来てね』
「おう」


黒羽快斗。17歳。
これはたぶん怪盗さんの素顔だ。
口調が変わるのは仕事とプライベートをきっちり分けてるからか。
貸し一つって言われたけど、怪盗さんの素顔を見れたんだからこれでチャラじゃない?

お兄ちゃんに連れられて病室を後にしたけど、翌日病室を訪れたら、怪盗さんは既に退院した後だった。


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