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39.入院


あの後、お互い何も言葉を発しないままに新一にしばらく抱きしめられていたけれど、今日はもう遅いから帰りなよってあたしから新一の腕をほどいた。

新一は納得してはいないようだったけど、分かったってあたしの部屋を後にした。

納得してなくて当たり前だ。
あたしは日本に残るなんて一言も言わなかったんだから。

でも、あれ以上新一の腕の中にいるのが怖かった。
新一の温もりを感じているのが怖かった。

もうこれ以上、新一の存在が近くなるのが怖かった。

だからあたしは逃げたんだ。

明日からどうしようと、新一が帰ってからもしばらくは座り込んで居たんだけど、珈琲カップを片付けなきゃと動こうとした。
そういえば、玄関の鍵も掛けてない。

でも、立ち上がろうとしたところで、急に酷い立ち眩みが起こったみたいに視界が真っ暗になって、身体に力が入らなかったあたしはそのままその場に倒れ込んだ。


――
―――
―――…


「なまえ…なんで…」


誰の声だろう?
なんか、酷く懐かしい感じがする。


「なんで、あたしに何も言ってくれなかったのよ…バカっ…」


この人、泣いてる?

そう思った瞬間に、真っ暗だった視界が急に開けた。


『ここは…』


あたしがコナンの世界に来た日に見たあの夢の場所だった。

海が広がる崖に誰かがいる。


「なまえっ…」

『瑠架?』


海を眺めながら、涙を拭っているのは、高校を卒業してから数回しか会っていない瑠架だった。
連絡は時々してたけど、お互い通ってた大学が遠くて時間が取れなくて会えなかったから。

でも、何で瑠架が泣いてるの?
あたしがこの世界からいなくなっちゃったから?


「これがなまえが最期に見た景色、か。あんたの好きそうな景色だね。一面に海と空が広がってる」


そう言って、瑠架は涙に歪んだ顔で哀しげに笑ってた。

最期?どういうこと?
だってあれはただの夢、だったんでしょう?


「あたしが離れちゃったのが悪かったんだよね?
あんたが一人になるのを怖がってたのは知ってたのに…寂しがりのクセに強がってムリする性格だって知ってたのに!
もっと頻繁に連絡してれば良かったんだっ!!あんたが未遂してたことすら、あたしは知らなかった!」


瑠架、泣かないで?
瑠架は何にも悪くないの。
あれは、あたしが弱かっただけだから。


「離れてても親友だと思ってた…一生の友だちだって…なのに、あたしはあんたが死にたい程苦しんでるなんて知らなかった!あたしのせいだ!ごめん…ごめんね、なまえっ!!」


あたしの名前を呟きながら、何度もごめんと謝る瑠架を抱きしめたいのに、あたしは近づくことさえ出来ない。
瑠架が気にするようなことじゃないんだって、あたしにとっても瑠架は一生の友だちだよって言いたいのに。


「あんたの一周忌の前にどうしてもなまえが最期に見た景色を見ておきたかったんだ。なまえが好きな場所で死ねたんなら、最期は少しだけでも幸せ、だったんだよね?」


………今、なんて、言った?
あれは…夢、じゃ、なかった、の?


「なまえの口癖を今日はあたしが言うよ。これからのあんたの時間に…次に刻むなまえの時間に、幸せが溢れていますように。今度こそ、なまえが心から笑っていられますように!」


瑠架の声を、涙混じりの願いを叫ぶ声を聞きながら、あたしの視界はまた暗く閉ざされた。




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