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37.光が消える序章


一気に冬が存在を主張するように冷え込むようになった頃。
いつもフルーツを買っていた果物屋さんが、いい紅玉が入ったんだよって連絡してくれた。


『うわぁ!キレイな色ですね!』

「だろ?お嬢ちゃんがいっつもこいつを探してたの知ってたから、これは知らせてやらねーとって思ってな」

『ありがとうございます!んー、ホントにいい香りで美味しそう!これ、6個下さい!』


これが中々手に入らなくて、いっつも妥協してたんだけど、今日はいい紅玉が手に入ったし、さっそくお菓子作っちゃおうっと!
やっぱり作るならあれしかないでしょ!


「ポム・ランヴェルセ?」

『あ、それはあたしが勝手に付けた名前なんだけどね。アメリカのアップサイドダウンケーキとかフランスのタルト・タタンは知ってる?』

「知ってるわけないでしょ!」

『そんなに怒んないでよ』


早速お菓子を作ることにしたあたしは一つはもちろん先生用に作るんだけど、もう一つは園子が食べるかなぁって、いつもの様にイヤホンをつけながら電話をしていた。
最近園子に結構迷惑かけちゃってたし、そのお詫びも兼ねてね。


「それで、そのランヴェルセ?だっけ?どんなお菓子なのよ?」

『イメージはタルト・タタンなんだけどさ、型に薄く切って並べたりんごを敷き詰めてね、アーモンド風味のバターケーキ生地を流して焼くの。で、逆さまにして型から外すんだけどさ、りんごが口の中でとろける感じでね』

「あ、もういいわ。食べる時の楽しみが減りそうだし。それ、あたしにくれるんでしょ?」

『もらってくれるの?』

「なまえがそんだけ楽しそうな声してるってことは自信作なんでしょ?もちろん食べるに決まってるじゃない!」

『じゃあ、明日の朝にでも取りに来れる?あたし、先生んとこにも持って行かなきゃだからさ』

「明日は蘭と約束してるから、その前にあんたん家に寄るわ」

『あ、蘭と約束してたの?じゃあこれは別の人に』

「ダメダメ!あたしが食べるって言ってんでしょ!?」

『でも、蘭とどっか出かけるんじゃないの?』

「たった今、あたしの家でお喋り会に変更したから大丈夫よ!」

『そう?いっつもごめんね?』

「なーに言ってんだか。あたしも蘭もなまえのお菓子いつも楽しみにしてるんだから!」


だから絶対それあたしに頂戴よ?って念押しする園子に笑いながら了承して、頑張って作るわって電話を切った。

カラメルを流して固めた型にりんごを並べていると今度は先生から電話の着信が入った。
先生、いつものことながらナイスタイミングです!


『もしもし』

「どうしたんだい?今日のなまえ君の声はとても楽しそうだね。何かいいことでもあったのかな?」

『今、先生に渡す為のケーキを作ってるんですよ。だからいいタイミングで電話が来たなーと思いまして』

「ほう。それは楽しみだ。なまえ君に話したいことがあるから、明日時間が取れるかどうか聞こうと思っていたんだが、愚問だったようだね」

『はい。何もなくても明日お邪魔させていただきます』

「それじゃあ、楽しみにしているよ」


ルンルン気分でお菓子を作っていたから、あたしは先生が言った「話したいことがある」という言葉を聞き流していた。

またデートのお誘いでもあるのかな?

そのくらいにしか捉えてなかったんだ。


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